文学

『庭訓往来』①「正月状・二月状」を現代語訳!宴が中心の内容

1月の朝拝と2月の小竹筒をピックアップしました。

こんにちは、とらちゃです。

室町時代には魅力的な文学作品が多くウハウハしています。

さて、今回は『庭訓往来』の現代語訳と解説を行います。

高校日本史では名前だけ紹介されてサッと流されることが多いこの作品。

その中身はいったい何なのでしょうか?

この記事から分かること
  1. 『庭訓往来』とは?
  2. 『庭訓往来』の内容(現代語訳)

庭訓往来の意味

『庭訓往来』という言葉を聞いて何のことかピンとこない人が多いと思います。単語を分解してみましょう。

  • 庭訓:家庭内で教えられる教訓のこと
  • 往来:「往来物」のこと

「往来物」とは、往来するモノ つまり手紙を指します。

「家庭内で教えられる手紙」ということはつまり、教えるに相応しい内容が書いてある

ということです。

例えば、文法・表現・物の名称・年中行事・算術・筆跡・・・

が挙げられます。

庭訓往来とは?

教育に有益な情報が多く記載されている手紙のことで、

中世において教科書として用いられた。

他には、『実語教』という作品が、教科書に用いられていました。

庭訓往来の概要

全部で25通あります。基本的に2通で1セットです。

つまり約12セット。各月ごとの往来物を採用しているわけですね。

青文字になっている部分からリンクで飛べます。

1セット目 01:正月五日状往信
02:正月六日状返信
2セット目 03:二月二十三日状往信
04:二月二十三日状返信
3セット目 05:三月七日状往信
06:三月十三日状返信
4セット目 07:四月五日状往信
08:四月十一日状返信
5セット目 09:五月九日状往信
10:五月日状返信
6セット目 11:六月七日状往信
12:六月十一日状返信
7セット目 13:七月五日状往信
14:七月日状返信
8セット目 15:七月晦日状往信
16:八月七日状返信
9セット目 17:八月十三日状単信
10セット目 18:九月十三日状往信
19:九月十三日状返信
11セット目 20:十月三日状往信
21:十月三日状返信
12セット目 22:十一月十二日状往信
23:十一月日状返信
13セット目 24:十二月三日状往信
25:十二月三日状返信
(最後に) XX:奥書

進捗報告や誘いの断り、自慢話など、当時の人々の息遣いがリアルに書かれています。

建物の部位名や魚・植物の名前などが、めっちゃ列挙されている往来物もあります。

  1. 文字数と読み込み速度の関係で、2セットずつ記載することとします。
  2. 単語の意味は著作権の問題で記載できない場合がありますので、その対策をするまで、現代語訳のみにとどめたいと思います。

1セット目

(往信)源左衛門尉藤原→石見守中原

(返信)石見守中原→源左衛門尉藤原

1:正月五日状_往信

  • 挨拶が遅れたことへの謝罪
  • 宴の誘い

春始御悅向貴方先祝申候
畢冨貴萬福猶以幸甚々々
抑歳初朝拜者以朔日元三之次
可急申之處被駈催人々子日
遊之間乍思延引似谷鴬忘檐
花苑小蝶遊日影頗背夲意候
畢將又楊弓雀小弓之勝負笠
懸小串之會草鹿圓物遊三々
九手夾八的等曲節近日打續経
營之尋常射手馳挽達者少々
有御誘引思食立給者夲望也
心事雖多為期參会之次委
不能腐毫恐々謹言
正月五日 左衛門尉藤原
謹上  石見守殿

年が明け、春を迎えましたこと、あなた様に向かって、まずはお祝い申し上げます。
今年もますます富貴に満ち溢れた年になりますよう心から願っております。

そもそも、元日は天皇の四方拝の儀式があるため、訪朝は元旦の挨拶の次に優先すべき事です。

すぐに訪朝してあなたにご挨拶をしたかったのですが、皆が子の日の遊び(※1)を始めてしまいましたもので、これに混じっていたら思いの外、長居してしまいました。
せっかく春になったというのに、谷に住むウグイスがひさしに咲いた梅の花に気づかないように、小蝶が一面花で覆われた日の差す花園で遊ぶのを忘れ日陰で舞うように、全くもって本意ではないことをしてしまいました。挨拶が遅れて申し訳ございませんでした。

さて、楊弓、雀の小弓の勝負や笠懸や小串の会、草鹿、円物の遊び、三三九の手夾、八的を始めとする曲節を近日、私が開催することとなりました。

この他、尋常の射手、馳引の達者が少々お誘いをいただいておりますが、あなたからもお誘いいただければ、それは本望です。手紙では感謝の意を書き尽くすことはできません。

これらの会に参加されてはいかがでしょう。私の拙い文章で書くことは恐れ多いため、詳しくはお会いしてから話しましょう。恐々謹言。

正月五日 左衛門尉藤原
謹上   石見守殿

※1:子の日の遊び:野に出て小松を引き抜く行事。宴を開く場合もある。

2:正月六日状_返信

  • 手伝いができなかったことへの謝罪
  • 催す宴の費用負担について

改年吉慶被任御意候之条
先以目出度覺候自他嘉幸
千万々々御芳札披見之處青
陽遊宴殊珎重候堅凍早解
薄霞忽披即可促拜仕之處
自他故障不慮之至也百手達者
究竟上手一兩輩可令同道也但
的矢蟇目等無沙汰憚入候一種
一瓶者衆中課賭引手物者亭
主奔走欤内々可被得御意万
事物忩之際不能一二併期面
拜之時恐々謹言
正月六日 石見守中原
謹上  源左衛門尉殿

新年明けましてお慶び申し上げますこと、思召すままに新年を迎えられましたこと、先ずはめでたいことと思います。全ての人に多幸あれ。

あなたが下さった手紙拝読いたしました。青陽の季節となりました、正月の遊宴(往信の『楊弓、雀の小弓~』のことか)は、宝を大切に扱うがごとく大切な催しであります。

固い雪も早く溶け、薄霞はたちまちに見られるようになりました。誠に春を感じます。
そう、正月となりましたので、あなたの遊宴に手伝い仕りたいところではありますが、自分の都合、他人の都合により、お手伝いできる日が延びてしまいました。申し訳ございません。

私は、百発百中の弓の名手であり、右に出る者がいないほどであります。この道を得意とする者は一人と二人といません。あなたが私とこの道を共に歩む二人目です。
ただ、こんな私ですが、的矢や蟇目といった遊びは大した経験が無く、参加は遠慮させていただきます。

肴と酒は遊宴に参加した者が、賭け事やその景品は主催側が負担するものであります。内々に伺いたい。どのように開催するおつもりでしょうか。

様々な用事で忙しく、詳しく書くことができなかったと思います。ですので、今度お会いした時に色々と話をしましょう。お会いできるのを期待しています。恐々謹言。

正月六日 石見守中原
謹上   源左衛門尉殿

2セット目

(往信)弾正忠三善→大監物源

(返信)大監物源→弾正忠三善

3:二月二十三日状_往信

  • 久しく会っていないことへの謝罪
  • 歌会の誘い
  • 歌や詩の名手も誘って欲しい

面拝之後中絶良久遺恨如山
何日散意霧哉併似隔胡越
猶以千悔々々抑醍醐雲林院花
濃香芬々匂已盛也嵯峨吉野山
桜開落交條其梢繁難黙止者此
節也争徒然而送光陰哉花下
好士諸家狂仁如雲似霞遠所之
花者乗物僮僕難合期先近隣
之名花以歩行之儀思立事
候雖為左道之樣以異躰之形
明後日御同心候者夲望也連歌
宗匠和謌達者一両輩可有御
誘引以其次詩聯句之詠同所望
候破籠小竹筒等者自是可随
身硯懐紙等可被懐中欤如何
心底之趣難盡帋上併期参會
之次不具謹言
二月廿三日 弾正忠三善
謹上 大監物殿

最後にお会いしてから久しくなりまして、非常に残念であります。私はあなたと何日もお会いできず、気持ちが晴れません。古代中国、胡と越が遥か遠くに位置しているように、あなたとの距離が非常に遠く感じており、最後にお会いして以降一度もお会いしなかったことを非常に悔いています。

さて、醍醐寺や雲林院の花は濃香芬々として、既に見頃となっております。嵯峨や吉野山の桜は開花しているもの、散っているもの様々で、自然その梢は見頃に比べて葉が繁っている状況です。この機に及んで、何もしないでいるなどできません。どうして、徒に何もしないで月日を送る事ができましょうか、いや、できません。花を好む風流人や家柄による役職を忘れて風流に傾倒する狂人が集まる様は、霞が集まって雲になるのと同じです。

花を見に遠出する場合は、乗り物や従者などが必要ですが、なかなか皆の都合が合わず、予定を決めるのが難しいものとなっております。そこで私は、近隣の花の名所で、散策や詩歌の遊びをすることを思い立ちました。

本来あなたは乗り物に乗って移動するはずの身分であると心得ております。道に外れた行為ではあると存じておりますが、明日明後日、歩きでもよければ参加していただきたい。そうしていただければ本望です。

これに際して、連歌の師匠、和歌の達人、一人二人お誘い願いたい。それが決まった後、漢詩や聯句が詠める者を同じように一人二人お誘い願いたい。

破籠や小竹筒などは私が持参いたします。硯、懐紙などは、各々持参するべきでしょうか、どう思われますか。

私の思いは紙では書ききれません。不義かとお思いになるかもやしれませんが、ご参加、お待ちしております。不具謹言。

二月廿三日 弾正忠三善
謹上 大監物殿

4:二月二十三日状_返信

  • 和歌以外の自信の無さを告白
  • 参加は本望である

欲自是令申候之處遮而預
恩問御同心之至多生之嘉會也
抑花底會事花鳥風月者
好士之所学詩哥管絃者嘉齢
延年之方也御勧進之躰相
叶夲懐候者哉後園庭前之
花深山藂樹之櫻誠以開敷之
㝡中也若今明之際有暴風霖
雨者無念事也同者片時急度
所令存也和哥者雖仰人丸赤
人之古風未究長謌短歌
旋頭混夲折句沓冠之風情輪
廻傍題打越落題之躰詩聯句
者乍汲菅家江家之舊流更忘
序表賦題傍絶韻聲質頗如猿
猴之似人同螢火之猜燈然而被
召加人数一分者殆可招後日之恥
辱執筆發句賦物以下才覺
未練之間當座定可及赤面欤
聊可有用意由之事奉候訖
可致如形之稽古公私忩忙之間
不遑毛舉恐々謹言
二月廿三日 監物源
謹上    弾正忠殿 御返事

私から『花見に行きませんか。』とお誘いするところ、あなたの方からこの旨の手紙をいただきました。私の心はあなたのお心と同じです。

そもそも、花の下に集う会というのは色々と良い機会でもあるのです。花鳥風月は、風流を好む者にとって学ぶ機会でありますし、詩歌管弦は年が明け、歳を重ねたことを実感する良い機会であります。参加のお誘いは私の本来の願いに叶うものです。

近く、屋敷の庭先に咲いた花や、遠く、緑深く鬱蒼とした山に咲いた桜は誠に満開の時を迎えております。もし、近日暴風、長雨の天気となれば、この会は無念のこととなります。ですので、一時も早く開催したいものです。

和歌の道では、柿本人麻呂や山部赤人を仰ぐこととなっており、その手法を学びましたが、長歌や短歌、旋頭歌、混本歌、折句、沓冠といった道には、和歌では禁忌とされている輪廻、傍題、打越、落題といった手法があります。私はこれらをまだ習得しきれていません。

また、私は漢詩や聯句は野見宿禰を祖とする菅家、大江音人を祖とする江家が確立させた古い流派に倣いながらも、序、表、賦、題、傍絶、韻聲といった漢詩や聯句決まりを忘れています。

猿は人に似ていますが、人ではありません。蛍の光は本物の火ではありません。私は文芸の道に詳しくありませんので、参加した際には、風流人の真似事のような振る舞いをしてしまうでしょう。ですので、人数を一人加えられれば加えられるだけ、私は後日、恥を受けることとなってしまいます。

執筆、發句、賦物を書く生まれつきの才能もなく、無いなら無いで練習を積まなかった未熟者でございますので、参加すれば、赤面すること間違いありません。

とはいえ、あなたから『会の用意をしていただきたい。』との旨を承りましたので、仰せの通りにいたしましょう。もともと、会の参加は私の本望であります。

和歌や漢詩は、型に倣って稽古しておきます。公私ともに忙しいため、詳しく文を書く暇がありませんので、この辺で筆を擱きます。恐々謹言。

二月廿三日  監物源
謹上     弾正忠殿 御返事

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