史料

意見封事十二箇条<全現代語訳>⑪第11条:国民の2/3がハゲ頭という現状

作品を知ろう!!!

三善清行 平安

延喜4年(914年)に醍醐天皇に提出された政治意見書。平安末期の社会情勢と律令制の崩壊を知ることができる。

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律令制崩壊と負名体制に移行する移行期の社会を如実に示した非常に史料価値の高い意見書です。
意見封事十二箇条<全体構成と内容>律令崩壊期の社会変化を解説! 現代語訳一覧 各条文の現代語訳はこちらです! 現代語訳一覧 序文 第一箇条 第二箇条 ...

現代語訳

諸国の僧都の悪事及び宿衛の舎人の凶暴行為の禁止を求めます

護衛を任されているのは

私は恐れ多いながら延喜元年(901年)の官符を拝見しました。昔から権力のある家は領地である山川を防衛する規則を制定しており、今勢いのある家がそれら家々の田地を奪ったり侵略したりすることをすでに禁止しています。このことは地方に住む悪人や万民の作った作物を食い荒らす悪党といった輩を取り除いています。これは官吏の自治を円滑にすることに加え、民が安心して過ごすことにつながっているのです。

それなのに今は、凶暴で邪悪な者が悪僧から宿衛を任されています。私が思うに、諸寺の得度者と臨時の得度者は1年間で200~300人に及びます。とりわけ、この半分以上が邪悪な輩なのです。

また、諸国の百姓のうち、課役から逃げたり租調から逃れようとしたりした者は自ら髪を落とし、みだりに法服を着ています(=私度僧のこと)。このような輩は年を追うごとに次第に多くなっています。

全国民のうち、3分の2がハゲ頭なのです。ハゲ頭は皆妻子を持ち、口を開けば嘘くさいことを説いています。外見は徳のある出家僧に似ていますが、心は身分の低い屠児のようです。ああ、その中でももっとも甚だしい者は群れを作って盗みを行い、貨幣を勝手に鋳造しているのです。奴らは刑罰を恐れず、戒律を顧みていません。もし、国司が法に従って罪の有無を調べれば、霧が集まって雲となるように、彼らは集団となって、競って更なる暴虐行為を働くでしょう。

昨年、安芸守の藤原時善は包囲攻撃を受け、また、紀伊守の橘公廉は略奪行為を受けました。これは皆悪僧の行いであり、これら悪僧らは皆頭領が原因なのです。たとえ官符を遅く出させ、朝廷の使いをゆっくり行かせたとしても、藤原時善・橘公廉は悪僧の餌食になっていたでしょう。また、懲罰制度が無ければ、守を防衛する者らは彼らを恐れたとも思います。

意見申し上げる

恐れながら希求します。乱暴を働く僧はすぐに捕え、僧の許可証を返還させるべきです。庶民の服を着せ、本来の課役を負担させるのです。これら暴徒が原因で、若い修行僧らは鉄製のくびかせを着用し、その身を悪僧らのために駆使しています。

また、六衛府の舎人はみな毎月当番を決めており、日の出と日の入りの時間の警備を行っています。非番の者は自宅待機が規則ですが、京の町に出て休んでいます。

とらちゃ
とらちゃ

京の東西に位置する帯刀町の名前はこのことが由来となっているらしです。

規則では、もし、緊急事態が発生すれば、当番で宿衛している者、他番で自宅待機している者が共に防衛にあたります。しかし、この件を含む舎人は皆諸国に散っており、全国に存在する駅家にいる舎人の他は100日かかるような辺境の地に存在しています。

なぜでしょう、名簿の名前を変えて宿衛の当番を分けているのでしょうか。いいえ、これをやっているのは皆、力のある集団や民間の凶暴な集団なのです。

国司は法に従い、罪の有無を調べるために疾走して京に入り、銭を納めて宿衛を買収しています。あるいは、お頭から徒党まで、国府を取り囲んで国司に圧力をかけています。あるいは、昔の地位を利用して官長を襲っています。彼らは社会の害となっています。ただ社会に寄生しているのではないのです。

意見申し上げる2

そう、警戒すべき事件に備えるため、衛兵を選んで配置するべきです。しかし今、舎人らは遠く畿内に住んでおり、京にはいません。たとえ京に心配事が無いとしても、京に居なくては何の役にも立ちません。もし急な出来事が発生しても、急行することはできません。すなわち、彼らは諸国で残酷なことをする者となっており、一度も軍の兵士として活躍していないのです。

望みます。各衛府の舎人らを補充した後、故郷に帰らないようにすることを。もし、嫁いだ女性の里帰りがあればその際は休暇を与えます。ただし、各府の帳簿に記録し、帰国の旨を国衙に送ります。期限を越えた滞在は認めないようにします。もし、決まりを守らず京に帰らない者がいたとしたら、国司とその者の職を解き、かつ、事を記録し、京にその書状を送らせます。

このようにすれば、猿は門の手すりで腕の長さを比べ合い(手すりに並ぶ→整列→規律を守る。規律の範疇で互いに高め合う)、犬は国土に立って休まず吠えるでしょう(犬は主人以外を怪しんで吠える=主人に仕える)。

 

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単語帳

舎人 かんじゃく参照。宿衛も勤務内容の一つであった
権貴(ごんき) 舞妓参照
勢家(せいけ) 権力や勢いのある家
芟(かル) 草を刈る
枳棘(ききょく) 「からたち」と「いばら」。悪人や邪魔者の例え。
兆庶 序文参照
蝥蠈(みょうそく) 稲を食い荒らす害虫の総称
年分 一年間で出家できる(得度)人数が決まっており、その対象者のことを指す。出家すると納税、兵役などが免除された。この濫用を防ぐために出家の人数を制限した。
就中(なかんづく) とりわけ
禿首(とくしゅ) ハゲ頭
腥膻(せいせん) 生臭いこと
沙門 出家僧
屠児(とじ) 家畜などを殺すことを生業としていた人。「穢(けがれ)」を扱っていた。
勘糺(かんきゅう) 法と照らし合わせて罪の有無を調べること
魁帥(かいすい) 悪党の頭領
緩行 ゆっくり行くこと
禁懲(きんちょう) 懲らしめること
登時 すぐに
度縁(どえん) 朝廷が発行した、僧となることを許可した証明書。
戒牒(かいちょう) 度縁に同じ。まとめて度牒(どちょう)と言われる。
沙弥 20歳未満で出家し、度牒を受けて正式な僧を目指す修行僧を指す。
鉗(けん) くびかせ
鈦(ませ) チタン
機急 緊急
門籍(もんぜき) 内裏の各門に設置された役人の名簿
駿奔(しゅんぽん) 疾走する
蠹害(とがい) 虫が食物や衣服などを食って害を加えること。転じて、物事に害を加えること
疥癬(かいせん) ヒゼンダニが皮膚に寄生することで発生する皮膚炎の名称。
衛卒 衛兵のこと
甸服(でんぷく) 古代中国において、城の周囲500里の領域を指す。日本では、畿内を意味する。
心配事
豺狼(さいろう) ヤマイヌとオオカミ。転じて、残酷なことをする人。
六軍 古代中国の周代において王は六つの軍を有していたとされる(『周礼』)。一軍は12500人である。[横田健一『武事には金鐸を振うー古代中国の場合ー』]
貙虎(ちゅこ) 人に化けるという虎。ここでは、庶民から兵士に変じる様子を言っている。
帰寧(きねい) 嫁いだ女性が里帰りすること
猨臂(えんぴ) 猿の腕。転じて、長い腕。猨は「猿」に同じ。
州壌 国土