庭訓往来について
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三月状現代語訳
(往信)玄蕃允平→御政所殿
(返信)左衛門志橘→玄蕃允殿
05:三月七日状_往信
- 久しぶりに挨拶したい
- 荘園領主になったことの祝い
- 管理者の心得とアドバイス
祝言於于今雖事旧候尚以珍重々々
慶賀遂日重畳家門迎年繁昌
自他不可有際限
早可令参賀候
抑御領入部無相違之条
先以神妙之由御感候也
就之四至牓尓境阡陌
聊不可被混乱他所被
致精廉沙汰之条奉公忠勤也
厨梡飯令調進者
早課沙人等地下目録取帳
以下文書済例納法注文悉可被召進也
容隠之輩隠田之族為罪科可注進交名
且東作業之事兼相水旱之年須計
腴迫之地被致所務有
可令開作之地者招居農人
令開発之於可任用水便者為土民之役
可修固堤井溝者也
佃御正作之勧農除迫地撰
𤎼田急可下行種子農料
促鋤鍬犂等之農具
令耕作粳糯早稲晩稲等
西収期可願苅頴舂法既得
次畠事蕎麦大豆小豆大角豆粟麦黍稗等
随畑山畠之乾𤎼可課桒代加地子
遂毎年実検之節敢不可存自由之依怙
御舘造作事不可有各別作事
奉行早四方構大堀其内可用意築地
棟門唐門者可有斟酌之儀
於平門上土門薬医門之際可被相計之
寝殿者厚萓葺板庇
廊中門渡殿者裏板葺
御厩侍会所囲炉裏之間
学文所公文所政所膳所台所贄殿局
部屋四阿桟敷揵児所者葦萱葺可支度也
南向者通笠懸馬塲令結埒同可築的山
東面者構蹴鞠之坪被殖四夲懸
泉水立石築山遣水任眺望
随方角無禁忌之様可相計之相
続客殿可立檜皮葺之持仏堂
礼堂庵室休所者先仮葺也
傍又可構土蔵文庫
其中間者屏也
後苑之樹木四壁竹前栽之茶園
同可調植也
被仰下条々無怠慢被勤仕者
可被忠賞之旨候也
恐々謹言
三月七日 玄蕃允平
御政所殿
お祝い申し上げます。今もなおそうですが、これからもご自愛くだされ。日を経るごとに、お家が立派なものとなり、年を経るごとに盛んになることは誠におめでたいことです。貴家の繁盛は全ての家を見渡しても右にでません。早く、参内していただきたい。直接、祝意を申し上げたいのです。
さて、御領に赴いて、荘園領主として、望み通りの統治を行う御予定と聞きました。誠に感涙の至りでございます。四至榜示(土地の区域を示す、四方に設置された標識)と東西南北に延びた縦横の道路の確定は、少しでも誤った設置をして、混乱をおこしてはいけません。公正に土地区画を行うことは、まさしく国に忠節を致すことを意味します。
御領入部の際、現地の役人より厨や梡飯(おうはん)といった多くの饗応を受けることは間違いないでしょう。それが終われば、早く役人らに命じて、地下の目録や取帳、以下、文書の済例といった記録文書、年貢の督促状は残らず発行するべきです。それによって炙り出された隠田を黙認されている輩、隠田を所有している輩は、罪科を課すため、その名を書き連ね、領主に報告申し上げなされ。
まず、農作業に関して。その年が、雨の多い年か日照りの多い年かを予測したり、肥えた土地か痩せた土地か判断したりしてから、政務にあたりなさい。開発すべき土地があれば、農民を召集して強制的にその土地に住まわせ、開発させなさい。灌漑設備が必要となったならば、その土地に住まう者の義務として彼らに課役し、堤や井、溝を整備させなさい。貴方の直営田の土地選びは、痩せた土地を除き、肥えた土地を選びなされ。
その後、それに必要な種子や肥料を急ぎ与え、鋤、鍬、からすきといった農具を使わせて、うるしね、もらい、早稲、晩稲などを耕作させるべきです。植える以上、必ず収穫がやってきます。秋の収穫の時期には、例年通りの年貢が収穫できるよう、豊作を願いなされ。
次に、畑の管理について。蕎麦、麦、大豆、小豆、ささげ、粟、きび、稗などは、畑や山畑の肥え痩せに従い、畑の税額を定めなされ。加地子(年貢における荘園領主の取り分)を定めなされ。毎年収穫量の調査を行い、不正のないように。少しも勝手な依怙贔屓はしてはなりません。
三つ目に、要人の屋敷建設について。これは、費用のかかるような手の込んだものを造らないこと。奉行の屋敷は、四方に大堀を設け、その内側に土塁を構えるべし。その屋敷の棟門や唐門は、屋敷主の身分や意向を汲み取って、ほどほどに設けると良い。平門、上土門、薬医門の塀に関しては、同じ様にしなさい。
素材について。寝殿は厚萱葺きと板庇を、中門と渡殿は裏板葺を、御厩と侍と会所と囲炉裏の間と学文所と公文所と政所と膳所と台所と贄殿と局と東屋と桟敷と健児所は葦萱葺を調達しなさい。南面には、笠懸の馬場を通し、埒(馬場の矢来垣)を用意し、同じく的山を築きなさい。東面には、鞠壺(蹴鞠をする競技場)を構え、四本(桜、柳、楓、松)の仕切りを植えるように。泉水、立石、築山、遣水、は眺めが良いように配置するのだが、方角に従って禁忌とされているものがあるので、上手く調整すること。
客殿に続いて、檜皮葺の持仏堂(仏や一族の位牌を安置するお堂)も造られよ。礼堂と庵室と休所ですが、これは仮葺で造り、傍らには土蔵の書物蔵を設けます。火災の手から書物を守るため、その間には塀を設けます。屋敷の後園の樹木、四壁の竹、前栽の茶園は、同じ様に拵えてください。これまで申し上げました条々、さぼることなく実行すれば、その家構えの品を評価され、褒美をいただけるほどのものとなるでしょう。恐々謹言。
三月七日 玄蕃允平
御政所殿
06:三月十三日状_返信
- アドバイスに従う
- 農民の訴訟の実態
- 材木の種類と用途
被仰下之条具以承候了
聊不可存等閑候也
抑御下文御教書厳重之間
入部使節無異儀莅彼所令遵行候
訖吉書令撰行吉日良辰耕作業㝡中也
地下文書事或紛失或失墜
錯乱之由沙汰人等依構申
延引之間恐入候
事実否又土貢員数尋捜追可申注進也
作事者桁梁柱長押棟木板敷
材木者虹梁之間為杣取令誂候畢
門冠木扉装束唐居敷板鼠走方立
雲臂木懸魚蟇股木并鴨居敷居
垂木々舞破風関板飛縁角木
縁短柱簀子唐墻透垣柴垣築墻檜墻
杦障子厨子連子蔀隔子遣戸妻戸
織戸決入高欄宇立杻首足堅天井縁
障子骨棟樋組押榑襲木檜曽水門
葺地具足者於津湊可令買之
山造斧鐇釿并造作釘
金物者用意炭鉄召居鍛冶令造候也
仰木工寮修理軄大工被召下巧匠
釿立礎居柱立精鉋
棟上吉日者課陰陽頭可被定下
次樹木事梅桃李楊梅棆檎枇杷
杏栗柿梨子椎榛柘榴棗樹淡
柚柑々子橘温州橘々柑柚
以下心之所及令尋植候
訖猶以御日記可被仰下也
諸事可随御左右
雖可申入之子細候御領田堵
土民名主庄官等存野心之際
条々未落居候責伏之後遂
参上可申入候之旨可有御披露者也
恐々謹言
三月十三日 左衛門志橘
進上 玄蕃允殿 御返事
仰せ下さった条々、事細かに承りました。これは少しでもいい加減に扱ってはいけないものであります。
そもそも、御下文や御教書の内容は絶対であり、入部の旨を伝える使者というのは、要するに上意の代弁であります。これに対して異議なく、然るべき命に従うのが道理です。
吉書(納税額などを記した)を民に公布する日は、吉日や良振といった物事を行うに良いお日柄にするべきでしょう。今は農作業の繁忙期ですから、吉書の確認を後回しにし、最悪の場合紛失という可能性があります。このような事態にならぬよう見定めます。
現在、吉書に関わらず、百姓に示す文書が紛失等により、整頓されていません。この状況をみた百姓等が、荘園領主のもとで働く沙汰人に対し、言葉巧みに抗議申し上げている有様です。 裁定が先延ばしになることを私は恐れています。 抗議された事の真偽や年貢量を示した証拠文書を探し出し、追ってことの次第を申し上げます。
建築においては桁・梁・柱・長押・棟木・板敷を設けます。材木は、虹梁の間には、杣取したものを使います。使用場所は、 門の冠木・扉の装束・唐居の敷板・鼠走・方立・雲肱木・懸魚・蟇股の木、ならびに、 鴨柄・敷居・垂木・木舞・砂風・関板・飛縁・角木・縁の束柱・簀子・唐墻・透垣・柴垣・檜墻・杦障子・厨子・連子・蔀・隔子・遣戸・妻戸・織戸・決入・高欄・宇立・杻首・足堅・天井の縁・障子の骨・棟樋・組押の榑・襲の木・檜曽・水門です。
屋根を葺くために必要なものは港で買います。
山の開発用の斧・鐇・釿、ならびに釘を調達。金物は炭釜を用意し、鍛冶を雇ってそれら器具を造らせます。 木工寮、修理職の大工にお願いし、優秀な職人を雇い、釿立・礎居・柱立・精鉋の儀式を行います。棟上の吉日は、陰陽頭に頼み、定めてもらいましょう。
次に樹木について。梅・桃・李・楊梅・棆檎・枇杷・杏・栗・柿・梨子・椎・榛・柘榴。棗。樹淡・柚柑・柑子・橘・温州橘・橘柑・柚、以下私の満足いくまで植えさせます。
何か指摘がございましたら、日記にてお申しつけください。細かい点は、あなた様の指図に従います。 私から申し上げる子細は色々ありますが、御領の田堵・土民・名主・庄官等が色々と公事業の妨害を加えようと野心を見せております。
要するに、問題が山積みのまま片付いていないのです。 彼らの野心を鎮めた後、詳しいことを参上して申し上げます。予め知っていただきたいことを、この手紙で色々と申し上げました。
恐々謹言。
三月十三日 左衛門志橘
進上 玄蕃允殿 御返事
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