庭訓往来について
『庭訓往来』の概要と現代語訳一覧は別にまとめていますので、こちらをご覧ください。

正月状現代語訳
(往信)源左衛門尉藤原→石見守中原
(返信)石見守中原→源左衛門尉藤原
01:正月五日状_往信
- 挨拶が遅れたことへの謝罪
- 宴の誘い
春始御悦向貴方先祝申候
畢冨貴万福猶以幸甚々々
抑歳初朝拝者以朔日元三之次
可急申之処被駈催人々子日
遊之間乍思延引似谷鴬忘檐
花苑小蝶遊日影頗背夲意候
畢将又楊弓雀小弓之勝負笠
懸小串之会草鹿円物遊三々
九手夾八的等曲節近日打続経
営之尋常射手馳挽達者少々
有御誘引思食立給者夲望也
心事雖多為期参会之次委
不能腐毫恐々謹言
正月五日 左衛門尉藤原
謹上 石見守殿
年が明け、春を迎えましたこと、あなた様に向かって、まずはお祝い申し上げます。
今年もますます富貴に満ち溢れた年になりますよう心から願っております。
そもそも、元日は天皇の四方拝の儀式があるため、訪朝は元旦の挨拶の次に優先すべき事です。
すぐに訪朝してあなたにご挨拶をしたかったのですが、皆が子の日の遊び(※1)を始めてしまいましたもので、これに混じっていたら思いの外、長居してしまいました。
せっかく春になったというのに、谷に住むウグイスがひさしに咲いた梅の花に気づかないように、小蝶が一面花で覆われた日の差す花園で遊ぶのを忘れ日陰で舞うように、全くもって本意ではないことをしてしまいました。挨拶が遅れて申し訳ございませんでした。
さて、楊弓、雀の小弓の勝負や笠懸や小串の会、草鹿、円物の遊び、三三九の手夾、八的を始めとする曲節を近日、私が開催することとなりました。
この他、尋常の射手、馳引の達者が少々お誘いをいただいておりますが、あなたからもお誘いいただければ、それは本望です。手紙では感謝の意を書き尽くすことはできません。
これらの会に参加されてはいかがでしょう。私の拙い文章で書くことは恐れ多いため、詳しくはお会いしてから話しましょう。恐々謹言。
正月五日 左衛門尉藤原
謹上 石見守殿
※1 子の日の遊び:に出て小松を引き抜く行事。宴を開く場合もある。
02:正月六日状_返信
- 手伝いができなかったことへの謝罪
- 催す宴の費用負担について
改年吉慶被任御意候之条
先以目出度覚候自他嘉幸
千万々々御芳札披見之処青
陽遊宴殊珍重候堅凍早解
薄霞忽披即可促拝仕之処
自他故障不慮之至也百手達者
究竟上手一両輩可令同道也但
的矢蟇目等無沙汰憚入候一種
一瓶者衆中課賭引手物者亭
主奔走欤内々可被得御意万
事物忩之際不能一二併期面
拝之時恐々謹言
正月六日 石見守中原
謹上 源左衛門尉殿
新年明けましてお慶び申し上げますこと、思召すままに新年を迎えられましたこと、先ずはめでたいことと思います。全ての人に多幸あれ。
あなたが下さった手紙拝読いたしました。青陽の季節となりました、正月の遊宴(往信の『楊弓、雀の小弓~』のことか)は、宝を大切に扱うがごとく大切な催しであります。
固い雪も早く溶け、薄霞はたちまちに見られるようになりました。誠に春を感じます。
そう、正月となりましたので、あなたの遊宴に手伝い仕りたいところではありますが、自分の都合、他人の都合により、お手伝いできる日が延びてしまいました。申し訳ございません。
私は、百発百中の弓の名手であり、右に出る者がいないほどであります。この道を得意とする者は一人と二人といません。あなたが私とこの道を共に歩む二人目です。
ただ、こんな私ですが、的矢や蟇目といった遊びは大した経験が無く、参加は遠慮させていただきます。
肴と酒は遊宴に参加した者が、賭け事やその景品は主催側が負担するものであります。内々に伺いたい。どのように開催するおつもりでしょうか。
様々な用事で忙しく、詳しく書くことができなかったと思います。ですので、今度お会いした時に色々と話をしましょう。お会いできるのを期待しています。恐々謹言。
正月六日 石見守中原
謹上 源左衛門尉殿
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