史料

讒謗律【現代語訳】讒謗の意味と発令の経緯を分かりやすく解説!

プロフィール帳

『讒謗律』

時代:明治

作者:大久保利通ら

概要:言論弾圧のひとつ。自由民権運動における政府批判を抑えるためであった。

1

オススメ度

3

日探重要度

1

文量

1

読解難易度

解説

背景

自由民権運動

明治時代初期、国内では言論の自由が広まり、それに伴って、新聞や雑誌は政府を良くも悪くも批評しました。特に『団々珍聞』は風刺画に特化した雑誌として当時の社会を痛烈に批判した一級史料です。

さて、散々な言われようをされていて政府が黙っているわけがなく、この政府批判を言論弾圧によって抑えようとしました。

そして当時の政府高官であった大久保利通が1875年に『讒謗律』と『新聞紙条例』の2つを制定したのです。

讒謗とは

讒謗(ざんぼう)と事もなげに使ってますが、そもそも讒謗とは、讒毀と誹謗の2つの意味をもつ単語です。

讒(ざん)

事実を捻じ曲げたり人を陥れたりすること

謗(ぼう)

他人のことを悪く言うこと

要するに、「誹謗中傷は罪だ!」ということです。ただ、現代のようにSNSで一般人が一般人を標的にするという形態ではありません。明治時代らしい特徴がみられます。それは

身分制度を中心として条項が展開されているということです。

条文の概要

条文の内容

各身分階層ごとに処罰の内容が規定されています。

第一条 「讒毀」と「誹謗」の定義
第二条 天皇批判への処罰
第三条 皇族批判への処罰
第四条 役人批判への処罰
第五条 華族士族平民批判への処罰
第六条 例外について
第七条 讒謗が刑法に触れた場合
第八条 第四条、五条に該当する者の扱い

前半と後半で分けることができますね

  • 前半(1~5条):身分別の処罰について
  • 後半(6~8条):例外パターンについて

分けるとはいえ、後半は前半の条項があってこそなので、実質身分別の処罰がこの『讒謗律』の主軸となっています。

 

ここで気になるのは第七条です。

とらちゃ
とらちゃ

『讒謗が刑法に触れた場合』って言ってるけど、讒謗律って刑法じゃないの?

実は『讒謗律』は刑法とは関係のない、独立した特別法なんです。

刑法は1877年に制定されましたが、その際『讒謗律』は統合されませんでした。そのまま1880年に廃止を迎えるまで、独立した法律として在り続けたのです。

身分別の処罰の内容

条文の内容を表に起こしてみました。

批判対象 禁錮 罰金
天皇(讒毀・誹謗) 3か月以上 3年以下 50円以上 1000円以下
皇族(讒毀・誹謗) 15日以上 2年半以下 15円以上 700円以下
役人(讒毀) 10日以上 2年以下 10円以上 500円以下
役人(誹謗) 3円以上 100円以下
華族士族平民(讒毀) 7日以上 1年半以下 5円以上 300円以下
華族士族平民(誹謗) 3円以上 100円以下

 

天皇批判が頭一つ抜けて重い罪に問われるかと思いきや、以外にも身分が上がるに比例するような作りになっているようです。役人と華族士族平民にみられるように、誹謗には禁錮刑がありません。このことから、讒毀が誹謗より重罪であることが分かります。

現代語訳

第一条

凡ソ事実ノ有無ヲ論セス人ノ栄誉ヲ害スヘキノ行事ヲ摘発公布スル者之ヲ讒毀トス

人ノ行事ヲ挙ルニ非スノ悪名ヲ以テ人ニ加ヘ公布スル者之ヲ誹謗トス著作文書若クハ画図肖像ヲ用ヒ展観シ若クハ発売シ若クハ貼示ノ人ヲ讒毀シ若クハ誹謗スル者ハ下ノ条別ニ従テ罪ヲ科ス

第一条。行為を摘発したり公表したりして、その人の栄誉を損ねた者は、その行為の事実の有無に関係なく、『讒毀』とする。

また、行為の内容を挙げず、ただ悪名を世間に広めた者は『誹謗』とする。著作文書や著作絵画、肖像画を用いて見せたり、発売や貼付によって広めたりといったような、人の讒毀と誹謗を働いた者は、以下に示す条に従って罰則を課す。

第二条

第一条ノ所為ヲ以テ乗輿ヲ犯スニ渉ル者ハ禁獄三月以上三年以下罰金五十円以上千円以下[二罰幷セ科シ或ハ偏ヘニ一罰ヲ科ス以下之ニ倣ヘ]

第二条。天皇に関して。第一条の理由をもって、天皇に対して謀る者は、禁錮三か月以上三年以下とし、罰金五十円以上千円以下とする。ただし、讒毀と誹謗の両方の罪を犯した場合は、いずれか片方の罰則を課す。これは以下の条項に倣う。

第三条

皇族ヲ犯スニ渉ル者ハ禁獄十五日以上二年半以下罰金十五円以上七百円以下

第三条。皇族に関して。皇族に対して謀る者は、禁錮十五日以上二年半以下とし、罰金十五円以上七百円以下とする。

第四条

官吏ノ職務ニ関シ讒毀スル者ハ禁獄十日以上二年以下罰金十円以上五百円以下誹謗スル者ハ禁獄五日以上一年以下罰金五円以上三百円以下

第四条。役人に関して。役人の職務に関して讒毀する者は、禁錮十日以上二年以下とし、罰金十円以上五百円以下とする。誹謗する者は、禁錮五日以上一年以下とし、罰金五円以上三百円以下とする。

第五条

華士族平民ニ対スルヲ論セス讒毀スル者ハ禁獄七日以上一年半以下罰金五円以上三百円以下誹謗スル者ハ罰金三円以上百円以下

第五条。華族士族平民に関して。左記の身分の上下に関わらず、これらに対して讒毀する者は、禁錮七日以上一年半以下とし、罰金五円以上三百円以下とする。誹謗する者は、罰金三円以上百円以下とする。

第六条

法ニ依リ検官若クハ法官ニ向テ罪犯ヲ告発シ若クハ證スル者ハ第一条ノ例ニアラス其ノ故造誣告シタル者ハ誣告律ニ依ル

第六条。例外について。法に携わる検察官、裁判官に向かって罪を告発、もしくは罪を証明する者は、第一条(讒毀と誹謗)に該当しない。そのため、罪を述べた者は、誣告律(誣告罪に関する法律)にしたがって処罰することとする。

第七条

若シ讒毀ヲ受ルノ事刑法ニ触ルゝ者検官ヨリ其事ヲ糾治スルカ若クハ讒毀スル者ヨリ検官若クハ法官ニ告発シタル時ハ讒毀ノ罪ヲ治ムルコトヲ中止シ以テ事案ノ決ヲ●チ其ノ被告人罪ニ坐スル時ハ讒毀ノ罪ヲ論セス

若シ事刑法ニ触レスシテ單ヘニ人ノ栄誉ヲ害スル者ハ讒毀スルノ後官ニ告発スト雖トモ仍ホ讒毀ノ罪ヲ治ム

第七条。もし、讒毀が当法律だけでなく刑法にも触れる場合は、検察官がそのことを厳しく問いただすこと。もし、讒毀を受ける者が検察官か裁判官に告発した場合は、讒毀の罪を裁定することを中止し、刑法によって事案の決議すること。被告人が罪を認めた時は、讒毀の罪は追及しないこととする。

もし、事が刑法に触れず、単に人の名誉を損ねただけの者は、讒毀の後、役人に、「刑法を犯した」と告発したとしても、それは受諾せず讒毀の罪を引き続き課すこととする。

第八条

凡ソ讒毀誹謗ノ第四条第五条ニ係ル者ハ被害ノ官民自ラ告ルヲ待テ乃チ諭ス

讒毀と誹謗の第四条、五条に該当する者は、すぐに裁定を行うのではなく、被害を受けた人自らの告発を待ち、それまでは説得すること。

まとめ

『讒謗律』についてまとめてみましょう。

讒謗律とは

讒:事実を捻じ曲げたり人を陥れたりすること

謗:他人のことを悪く言うこと

期間は1875年~1880年

刑法とは関係のない、独立した特別法

誹謗の方が罪が軽い

内容は、身分別の処罰を規定したもの

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