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国体明徴声明<全現代語訳>天皇機関説の解説付き!

『国体明徴声明』現代語訳のサイトです。天皇機関説についての解説も行います
作品を知ろう!!!

岡田啓介昭和

『天皇機関説』を否認することを政府が表明した文書。「天皇は神である」といった戦時思想の根本要因となった。

こんにちは、とらちゃです。

昭和の政治史は様々な要因が絡み合っているのでなんとも理解しにくいのが難点です。

今回は岡田啓介内閣で出された『国体明徴声明』の内容と、2度出された経緯、そしてその原因となった「天皇機関説」について解説します。

この記事から分かること
  1. 『国体明徴声明』が表明されるまでの経緯
  2. 『天皇機関説』の内容
  3. 『国体明徴声明』の現代語訳

鍵を握るのは、美濃部達吉『天皇機関説』です。

国体明徴とは何か

単語を分解してみましょう。

  • 国体:国の体制や状態のこと
  • 明徴:はっきりさせること

字のままですね。『国体明徴声明』とは、

「今の国の体制はこうである!」とはっきりとさせるために政府が出した声明

ということです。

問題は、なぜ声明を出す必要があったのか。という部分です。それには『天皇機関説』が深く絡んできます。

見ていきましょう。

天皇機関説とは何か

そもそもの原因となった「天皇機関説」が何かと、「国体明徴声明」公表に至った経緯を説明します。

天皇機関説とは

天皇機関に分解してみていきましょう。

まずは機関です。「機関」とは、「ある目的を達成させるために設けられた組織」という意味です。

この組織という部分がミソになります。

対して天皇はどうでしょうか。

「天皇」と聞くと、「日本の象徴」「日本で一番偉い人」と考えるのではないでしょうか。しかし、『天皇機関説』を考える上ではこの考え方は一旦脳の片隅に置きましょう。

これが『天皇機関』という言葉を混乱させている根源と私は考えています。

どういうことかと言うと、「日本の象徴」や「日本で一番偉い人」という表現は、天皇という役職に就いている「個人」を指しているからです。

天皇というのはあくまで職名・官位名なのです。

とらちゃ
とらちゃ

ちなみに、皆さんが使用している「○○天皇」というのは死後贈られた名前(漢風諡号)ですので、ご存命中は「帝」とか「御門」とか呼ばれていました。

となると、「天皇機関説」という言葉は、

「天皇はある目的のために行使される職」という意味です。

これに美濃部達吉の説を掛け合わせるとこうなります

天皇機関説とは

「天皇は、国益をもたらすという目的を達成させるために権力を行使することができる存在である。ただし、権力行使は憲法や法律の範囲内に限られる。」

という説。

天皇には、『大日本帝国憲法』や各種法律によって、様々な権力が与えられています。これは天皇御身のために存在するのではなく、国家のために存在する権力なのです。

そして、この権力というのは、無制限に思うがままに行使できる最強の権能ではなく、あくまでも法律の範囲内で効果を発揮することができます

何が問題だったのか?

結論を先に述べますと、『大日本帝国憲法』に定義されている天皇の存在意義と、軍部や右翼の方針が乖離していたことが原因で論争が起こりました。

『大日本帝国憲法』や各種法律には、「△△は天皇の仕事である。」「□□は天皇が持つ権利である。」といった風に、天皇だけがもつ役割が条項として制定されてあります。

憲法や法律に書かれているということはつまり、その権能は定められている条項の範囲内で発揮されるものだということです。

しかし現実はというと、軍部や右翼が天皇の権威を憲法や法律の範囲を超えて(=濫用して)行動しました。

この天皇の権威とは何でしょうか。それは、国家統治の大権です。名前だけ聞くと、「天皇に与えられた日本国を統治するために行使することのできる絶大な権力」という風に聞こえるでしょう?これを軍部や右翼は上手く利用し、天皇の神格化を目指したわけです。

「国家統治の大権」は『大日本帝国憲法』の条々ではなく、前書きに書かれている明文で、条々の効力以前に憲法に一貫して通ずる考え方となっています。

最初に言った通り、これも結局は『大日本帝国憲法』に書かれていることには間違いないため、従って、国家統治の大権は憲法内に書いてある条々の範囲内で行使される権能であり、万能で独裁的な権力ではないことが言えます。

軍部や右翼の主張がまるで逆ですね。ということで、「学説(憲法学者)VS軍部右翼」の戦いが幕を開けたのです。

学説 VS 軍部や右翼
憲法や法律の範囲内 絶対的な権能

この論争のいち局面で行われたのが、かの有名な美濃部達吉『一身上の弁明』です。美濃部は議会において「天皇機関説」の正しい意味について解説、主張しました。

『一身上の弁明』の現代語訳はこちらで行っています。『国体明徴声明』を出す要因となったので、こちらも必読です。

『一身上の弁明』アイキャッチ画像です。『天皇機関説』の解説でもあります。
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『国体明徴声明』表明

『一身上の弁明』によって非常に論理的に「天皇機関説」の正当性を示した美濃部達吉。軍部や右翼を論破しました。とはいえ、軍部や右翼は当然黙ってはいません。そして、当時の岡田啓介内閣に激しく圧力を加え、ついに政府は天皇機関説を否認する姿勢を示しました。この姿勢を表明したのが、『国体明徴声明』なのです。

こうして、次第に軍部や右翼の力が非常に大きくなり天皇の存在意義が絶対命令を下す唯一無二の存在へと変化、国民の戦争参加が正当化されていった歴史へと向かっていったわけです。

では、その内容を見てみましょう。

現代語訳

第一次声明<昭和10年(1935)8月3日>

内閣総理大臣、岡田啓介。

国体(天照大御神の神勅によって天皇が支配するこの国の在り方)をはっきりさせるべく、公示された政府の声明書。昭和10年(1935年)8月3日第一次声明。

畏れ多くも考えてみますと、我が国体は、天孫降臨の際に天照大御神が下賜された神勅によって既に明らかとなっております。それは『万世一系の天皇が国を統治され、その天皇位は、天も地も未来永劫続く(天壌無窮の神勅)。』というものです。

ですので、憲法発布の際、御上諭(法や令の条文の前に書かれる天皇のおことば)には『国家統治の大権というのは、私が先祖から承ったものであり、これは子孫に継承していく必要があるものである。』とお心を表明されました。そして、第一条には、『大日本帝国は万世一系である天皇が統治する。』と明示されてます。

すなわち、大日本帝国を統治する大権は、紛うことなく天皇が所有するものなのです。これは明らかです。もし、統治権が天皇になく、「天皇は統治権を行使するためだけに存在する職である。」などという類の考えをする者は、世界中どこを見渡しても例の無い、素晴らしい我が国体の本質を全くもって見誤っているといえます。

昨今、憲法の学説をめぐって議論が繰り広げられる中で、国体の本質に関する議論が出てきております。理由が何であれ、国体が議題に上がるが、誠に遺憾であります。つまり、このような自体が起こらぬよう、これから政府は国体をはっきりさせ、そして国体の真価を高々と発揮させることをここで約束します。この声明に関して、広く各方面の協力をお願い申し上げます。

第二次声明<昭和10年(1935)10月15日>

国体をはっきりさせるべく、公示された政府の声明書。昭和10年(1935年)10月15日第二次声明。

以前、政府は国体の本質に関して所信表明しました。これは、これから国民が向かうべき道を示し、国体の真価を高々と発揮させることを約束したわけであります。

そもそも、我が国における統治権の主体が天皇にございますことは、我が国体の本質であり、そして大日本帝国臣民の絶対不動の信念なのです。『大日本帝国憲法』の御上諭として、並びに各章各条として、その精神は明文化され、また、今の国風にその精神が表れていると推察します。

そうでありますので、外国の事例をみだりに学説に援用して我が国体の在り方になぞらえ主張した天皇機関説は厳重に取り除かなければいけません。天皇機関説とは、「統治権の主体は天皇ではなく国家にある。天皇は国家を構成する一部である。」というような主張であり、我が国の神聖なる国体の本質を甚だ見誤ったものであります。

政治や宗教、その他の事項全ては、世界中どこを見渡しても例の無い、素晴らしい我が国体の本質を基本とし、そして各事項において国体を広め高めていくことが必要なのです。

政府はこの信念に基づき、重ねて、天皇機関説を排除する意思があることを表明します。また、政府が有する国体に関する意見内容を明示したからには、その実績を収めるために全力を尽くすことを約束します。

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