文学

『平家納経』<現代語訳>目的は何だったのか?経緯と内容を詳しく解説!

法華経第二十七品の巻頭絵です。
作品を知ろう!!!

平清盛他 平安

平家が永遠の栄華を願って筆写し、厳島神社に奉納した。

平家納経とは

『平家納経』の中身とはいったい何なのでしょうか

平家納経とは?

納経という名の通り、経典を写したものが書かれています。写経ですね。

平清盛が平家一門の永遠の栄華を願って(発願)厳島神社に奉納しました。

奉納式が行われた長寛二年(1164)の段階では、全部ではなく一部が奉納されました。全て奉納を終えたのは、仁安二年(1167)です。

巻物の末の日付から判明しています。

かなりの大事業であったことが窺えます。

 

今回紹介する第二十七巻は下記画像のような巻物です。高校日本史の資料集にも多く掲載されている巻にもなります。

平家納経二十七品の1頁目です。 平家納経二十七品の2頁目です。 平家納経二十七品の3頁目です。

高橋義雄 編『平家納経副本』,厳島経副本調製会,大正15. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1183417

とらちゃ
とらちゃ

豪華絢爛な装飾が施されており、文化財として非常に貴重な史料となっています。

では、どの経典が書かれ、どのくらいの数を作成したのでしょうか??

何経が書かれ、いくつ作成されたのか?

全部で33巻構成、3つの経典が写経されています。

平家納経の構成
  1. 法華経  :30巻
  2. 阿弥陀経 :1巻
  3. 般若心経 :1巻
  4. 清盛の願文:1巻

④清盛の願文は清盛の自筆として、残りの32巻を平家一門で分担して作成にあたりました。動員されたのは32人。ひとり1巻ですね。

『法華経』は28章構成となっており、別名、法華経二十八品と呼ばれています。

1章=1品 ずつ分担して写経を行うことを一品経供養といいます。

なぜ厳島神社なのか?

清盛が厳島神社を信仰していたために厳島神社に納経したわけですが、それにはきちんとした理由があります。

厳島神社

広島県の宮島にある神社。宮城県の松島、京都府の天の橋立に並んで日本三景と呼ばれている。

厳島神社の写真です。厳島神社

栄華を極め、厳島神社を創建する

栄華を極めた平家。経済と政治の両方で大きな力を持ちました。

  • 経済(貿易)

久安二年(1146)、清盛は安芸守に任ぜられます。これによって瀬戸内航路の中心を担うするようになり、国内外の交易に強い力を持つようになりました。日宋貿易によって、宋銭を輸入していたのは有名な話です。また、荒廃していた摂津の大輪田泊という港を修築するほど、海上交通を重要視していました。

  • 政治

貿易で財を築いただけでなく、源氏との政界争いにも勝利し続けたことで、一族は栄華を極めていました。1156年の保元の乱に勝利し完全に瀬戸内海航路を掌握、1167年には太政大臣にまで上り詰めました。その翌年1168年、平家の氏神として、そして将来の海上貿易の安全・成功祈願として、厳島神社を創建します

とらちゃ
とらちゃ

厳島神社は平家の栄華を象徴した建造物であったのですね。

祀られている神様

厳島神社に祀られている神様が誰か。実は「宗像三女神」と呼ばれる女神が祀られています。福岡県に位置する宗像大社に祀られている神様です。宗像大社は最近世界遺産登録されました。

宗像三女神

  • 市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)
  • 田心姫命(たごりひめのみこと)
  • 湍津姫命(たぎつひめのみこと)

この三女神は、宗像大社の位置する玄界灘の海路を守護する神とされています。

宮島と地理的条件が似ているため、「宗像三女神」が信仰の対象となるのは容易に想像できます。

まとめ

いったんまとめましょう。なぜ厳島神社でなければならなかったのか、それは下記のような理由のためです。

まとめ

厳島神社に納経した理由

  1. 平清盛が創建し、氏寺となったため
  2. 海上交通を司る神「宗像三女神」を信仰していたため

では、お待ちかね、平家納経の内容です。

第二十七品の概要

概要

『法華経』第二十七品は、正式には妙法蓮華経妙荘厳王本事品第二十七と言います。

妙荘厳王という人物を中心に書かれた章のため、そのような呼び名となっています。

『平家納経第二十七品』では、全文が写経されているわけではないため、書き写された範囲のみを紹介します。

原文でいうと『夵時佛告~彼佛所出』までとなります。

第二十七品の内容

バラモン教を信仰していた妙荘厳王という王様が、仏教を信仰する息子たちの神力を目の当たりにして心を清めて仏教を信受する物語。

仏門に入った者は勤行に励むことを、仏教を教導する者は、ただ教えを説くだけでなく、明確にそして具体的な事象を用いて道を示す必要があることが書かれている。

登場人物

全部で5人です。

聴衆の前で『法華経』を説く。
(父)妙荘厳王 バラモン教を信じる。冒頭では、他の宗教を信仰しながら、『法華経』を説く仏の聴衆の中に混じるかたちで登場する。
(母)浄徳 二人の子の良き理解者。
(子)浄蔵
(子)浄眼
浄蔵・浄眼の二人で行動する。天才児で、様々な勤行に励み、神力を得る。

原文

妙法蓮華経荘厳王本事品第二十七
夵時佛告諸大衆乃往古世過無量無邊不
可思議阿僧祇劫有佛名雲雷音宿王華智
多陀阿伽度阿羅訶三藐三佛陀国名光明
荘厳劫名喜見彼佛法中有王名妙荘厳其
王夫人名曰浄徳有二子一名浄蔵二名浄
眼是二子有大神力福徳智慧久修菩薩所
行之道所謂檀波羅蜜尸羅波羅蜜羼提波
羅蜜毘梨耶波羅蜜禅波羅蜜般若波羅蜜

方便波羅蜜慈悲喜捨乃至三十七品助道
法皆悉明了通達又得菩薩浄三昧日星宿
三昧浄光三昧浄色三昧浄照明三昧長荘(※1)

厳三昧大威徳蔵三昧於此三昧亦悉通達
夵時彼佛欲引導妙荘厳王及愍念衆生故
説是法華経時浄蔵浄眼二子到其母所合
十指爪掌白言願母往詣雲雷音宿王華智
佛所我等亦当侍従親近供養礼拜所以者
何此佛於一切天人衆中説法華経宜応聴
受母告子言汝父信受外道深著婆羅門法
汝等応往白父与共倶去浄蔵浄眼合十指
爪掌白母我等是法王子而生此邪見家母
告子言汝等当憂念汝父為現神変若得見
者心必清浄或聴我等往至佛所於是二子
念其父故踊在虚空高七多羅樹現種種神
変於虚空中行住坐臥身上出水身下出火
身下出水身上出火或現大身満虚空中而
復現小小復現大於空中滅忽然在地入地
如水履水如地現如是等種種神変令其父
王心浄信解時父見子神力如是心大歓喜
得未曾有合掌向子言汝等師為是誰誰之
弟子二子白言大王彼雲雷音宿 華智佛
今在七宝菩提樹下法座上坐於一切世間
天人衆中広説法華経是我等師我是弟子
父語子言我今亦欲見汝等師可共倶往於
是二子従空中下到其母所合掌白母父王
今已信解堪任発阿耨多羅三藐三菩提心
我等為父已作佛事願母見聴於彼佛所出

長寛二年六月二日
右兵衛尉平朝臣重康

※1:『法華経』原文から書き写されていない箇所(理由不明)

現代語訳

その時、仏は多くの聴衆にこう語った。

古のさらに古、無量無辺不可思議阿僧祇劫、つまりはるかに遠い過去に、ある仏がいた。その名を雲雷音宿王華智とも、多陀阿伽陀度とも、阿羅訶とも、三藐三仏陀とも言う。国を光明荘厳と呼び、長く過ごした城は、喜見城と名付けられた。

彼の講義を受ける者の中に王がいた。名を妙荘厳という。その王の妻は浄徳といい、二人の子供がいる。一人を浄蔵、一人を浄眼という。

子の二人には、人智を超えた神通力・福徳・知恵を有しており、長い間菩薩のところで、菩薩の示す道を進むべく修行した。いわゆる、六波羅蜜である檀波羅蜜・尸羅波羅蜜・羼提波羅蜜・毘梨耶波羅蜜・禅波羅蜜・般若波羅蜜、そして方便波羅蜜、さらに四無量心である慈・悲・喜・捨、加えて悟りに至るための三十七の修行法である三十七道品を、全て明らかに修めたのであった。
それだけでなく、雑念を払うための修行である、浄三昧・日星宿三昧・浄光三昧・浄色三昧・浄照明三昧・長荘厳三昧・大威徳蔵三昧も学び、同様に、これも全て明らかに修めたのであった。

その時、仏は父、妙荘厳王を引導するため、そして衆生を憐れむために、『法華経』をお説きになったのであった。

浄蔵と浄眼の二人の子は、母親のところに行って全ての指、爪を合わせて合掌して言った。「母上、お願いがあります。雲雷音宿王華智仏のところに礼拝に行かせてください。我々は雲雷音宿王華智仏に付き従いて親近となり、供養して礼拝します。なぜこのようなことを言うのかといいますと、この仏は全ての天と民衆に対して『法華経』を説かれており、その教えを拝聴したいからです。」

母は子に言った。
「あなたの父は外道であるバラモン教を信じ込み、その教法に深く執着しています。あなたたちは父のところに行ってその旨を伝え、父と共に雲雷音宿王華智仏のところまで行きなさい。」

浄蔵と浄眼の二人の子は、再び全ての指、爪を合わせて合掌して言った。
「我々は法王(釈迦や如来)、つまり仏の子ですが、このように、別の宗教を信仰する家に生まれました。」

母は子に言った。
「あなたたちは、そのような父を憂い、人智を超えた不思議な力を具現する必要があるのです。もし、父がそれを見れば父の心は必ず清浄なものとなるでしょう。そうすれば、あなたたちが雲雷音宿王華智仏のところに礼拝に行くことをきっと聞き入れてくれます。」

浄蔵と浄眼は父のことを思った。極めて高い所にある、全てのものが存在する空間である虚空に昇って滞在した。すると様々な不思議な力が具現された。行住坐臥。虚空の中で普段通りの振る舞いをすると、身体の上から水を出し、下から火を出し、さらに身体の上から水を出し、下から火を出した。身体を大きくすれば虚空に満ち溢れるほどとなった。また、身体の大小を操ることができた。小から大にすると、空中で消滅したと思うと、いつの間にか大地にいる。地中へは水が染み入るように入り、水の上を歩く様子は地面の上を歩いているようであった。

その後、このような人智を超えた不思議な力を父に見せると、父の心は清浄となり、仏を信じるようになった。

父は我が子の神力をこの目で見て大いに歓喜し、そして未曾有な出来事だと理解し、空中にいる合掌して二人に言った。
「お前たちの師は誰だ。誰の弟子なのだ。」

二人は言う。
「父よ、王よ。かの雲雷音宿王華智仏が今、神聖な菩提樹の下にある法座の上に座っておいでです。全世界の天と民衆を前にして、『法華経』を広く説いておられるのです。あのお方が我々の師であり、我々はあのお方の弟子なのです。」

父は言う。
「俺は、お前たちの師に会いたいと思っている。共にあのお方のところまで行こう。」

二人は空から下り、母のところに行って合掌しては言った。
「わが父、王は、今まさに我々の神力、つまり菩薩の力を信じました。これにて、阿耨多羅三藐三菩提を求める許しを得たいと思います。わが父のために必要であった菩薩の教えはすでに修め尽くしました。母上。あの仏のところに行って、出家し、修行することを認めてください。」

とらちゃ
とらちゃ

『平家納経』はここまでになります。