解説
水無瀬三吟百韻とは
水無瀬三吟百韻(みなせさんぎんひゃくいん)は、室町時代後期に作られた連歌で、連歌が完成された芸術のひとつとして世に知らしめた作品です。成立は文明13年(1481)になります。
水無瀬とは
詠まれた場所は、山城国にある水無瀬宮跡(現在の大阪府島本町)です。この水無瀬宮は、後鳥羽上皇が居住していた宮殿で、室町時代後期の段階で既に跡地となっていました。
後鳥羽上皇は『新古今和歌集』を主導した人物で、中世和歌界の精神的な方針を確立しました。後述しますが、これに列席した飯尾宗祇は後鳥羽上皇を神格化しており、そのため、和歌の正統は後鳥羽上皇の宮殿に継がれていると考えたのです。
三吟とは
三名が吟じたため、「三吟」です。飯尾宗祇(そうぎ)、肖柏(しょうはく)、宗長(そうちょう)の三名で、当時随一の連歌師が一堂に会しました。なお、肖柏と宗長に名字はありません。
基本的に、宗祇→肖柏→宗長の順で詠まれます。
百韻とは
「百韻」とは、発句・脇句・第三句以下を連ねて全百句とする連歌の正式な形式のひとつです。
三人の歌風
三人はそれぞれの美意識を持って名を馳せました。その三人が上の句、下の句を分担して一つの和歌を作り上げるので、各々が高めた芸術性がさらに昇華されることとなったのです。
飯尾宗祇の歌風
歌全体の調和を重視
飯尾宗祇は、全体構成と歌の品位を重要視しました。派手な表現を避け、余情の含みを引き出したのです。余情は、和歌全体の文法や表現のバランスが取れていないと生まれるものであるため、飯尾宗祇は文法的な調和が和歌の根本義だと考えていたといえましょう。また、余情は新古今和歌の理念でもあるため、後鳥羽上皇の歌風が飯尾宗祇に移植されたことも特徴です
肖柏の歌風
先代を踏襲
三人の中で最も理知的で学問的な歌風をもっています。肖柏は連歌のみならず、漢詩文や和歌、仏典に精通しており、典拠を踏まえた歌が多いのが特徴です。
そのため、歌の意味が明確で、破綻がありません。連歌では、前句の語を理詰めで受け、理詰めで句の方針を定めるため、歌の意味が分かりやすいです。
宗長
人の心(感情)を最優先
三人の中で最も感情的な表現をします。他の二人は自然や時間など人間以外を主題とした句が多いですが、宗長は旅空や恋、孤独といった人間を主題にした表現が多いです。
そのため、言葉が平明で俗っぽいです。
一覧
| No | 句番号 | 者 | 句 |
| 1 | 初表八句 | 宗祇 | 雪なから山もとかすむ夕かな |
| 2 | 初表八句 | 肖柏 | 行水遠く梅にほふ里 |
| 3 | 初表八句 | 宗長 | 河風に一むら柳春見えて |
| 4 | 初表八句 | 祇 | 舟さすおともしるきあけかた |
| 5 | 初表八句 | 柏 | 月やなおきり渡る夜に殘るらん |
| 6 | 初表八句 | 長 | 霜おく野はら秋は暮れけり |
| 7 | 初表八句 | 祇 | 鳴くむしの心ともなく草かれて |
| 8 | 初表八句 | 柏 | かきねをとへはあらはなる道 |
| 9 | 第5句 | 長 | やまふかき里や嵐にをくるらん |
| 10 | 第5句 | 祇 | なれぬすまゐそ寂しさもうき |
| 11 | 第6句 | 柏 | 今さらに獨有身を思ふなよ |
| 12 | 第6句 | 長 | うつろはんとはかねてしらすや |
| 13 | 第7句 | 祇 | おき侘る露こそ花に哀れなれ |
| 14 | 第7句 | 柏 | また殘る日の打ちかすむ影 |
| 15 | 第8句 | 長 | 暮ぬとやなきつゝ鳥の歸るらん |
| 16 | 第8句 | 祇 | み山を行はわくそらもなし |
| 17 | 第9句 | 柏 | はるゝまも袖は時雨の旅衣 |
| 18 | 第9句 | 長 | わか艸まくら月ややつさん |
| 19 | 第10句 | 祇 | 徒にあかす夜おほく秋ふけて |
| 20 | 第10句 | 柏 | 夢にうらむる荻のうは風 |
| 21 | 第11句 | 長 | みしはみな故郷人のあともなし |
| 22 | 第11句 | 祇 | 老のゆくへよなにゝかゝらむ |
| 23 | 第12句 | 柏 | 色もなきことの葉をたに哀しれ |
| 24 | 第12句 | 祇 | それもともなる夕くれのそら |
| 25 | 第13句 | 長 | 雲にけふ花ちりはつるみねこえて |
| 26 | 第13句 | 柏 | きけは今はの春のかりかね |
| 27 | 第14句 | 祇 | おほろけの月かは人もまてしはし |
| 28 | 第14句 | 長 | かりねの露の秋のあけほの |
| 29 | 第15句 | 柏 | 末野なる里ははるかに霧立て |
| 30 | 第15句 | 祇 | 吹くる風はころもうつこゑ |
| 31 | 第16句 | 長 | さゆる日も身はそてうすき暮毎に |
| 32 | 第16句 | 柏 | たのむもはかな爪木とる山 |
| 33 | 第17句 | 祇 | さりともの此世の道はつき果て |
| 34 | 第17句 | 長 | こゝろほそしやいつちゆかまし |
| 35 | 第18句 | 柏 | 命のみ待ことにするきぬゝゝに |
| 36 | 第18句 | 祇 | 猶何なれや人の戀しき |
| 37 | 第19句 | 長 | 君をおきてあかすも誰を思ふらん |
| 38 | 第19句 | 柏 | その面影に似たるたになし |
| 39 | 第20句 | 祇 | 草木さへふるき都のうらみにて |
| 40 | 第20句 | 長 | 身のうきやとも名殘こそあれ |
| 41 | 第21句 | 柏 | たらちねの遠からぬ跡になくさめよ |
| 42 | 第21句 | 祇 | 月日のすゑや夢にめくらん |
| 43 | 第22句 | 長 | この岸を唐舟のかきりにて |
| 44 | 第22句 | 柏 | 又生れ来ぬ法を聞かはや |
| 45 | 第23句 | 祇 | あふまてと思の露のきえかへり |
| 46 | 第23句 | 長 | 身をあき風も人たのめなり |
| 47 | 第24句 | 柏 | 松むしのなく音かひなき蓬生に |
| 48 | 第24句 | 祇 | しめゆふ山は月のみそすむ |
| 49 | 第25句 | 長 | 鐘に我たゝあらましのね覺して |
| 50 | 第25句 | 柏 | いたゝきけりな夜なゝゝの霜 |
| 51 | 第26句 | 祇 | ふゆかれの芦零侘て立る江に |
| 52 | 第26句 | 柏 | 夕しほかせを沖つ舟人 |
| 53 | 第27句 | 長 | ゆくゑなき霞やいつく果てならん |
| 54 | 第27句 | 祇 | くるかた見えぬ山里の春 |
| 55 | 第28句 | 柏 | 茂みよりたえゝゝ殘る花おちて |
| 56 | 第28句 | 長 | 木のもと分るみちの露けさ |
| 57 | 第29句 | 祇 | 秋はなともらぬ岩屋もしくるらん |
| 58 | 第29句 | 柏 | 苔の袂も月はふけけり |
| 59 | 第30句 | 長 | 心あるかきりそしるき世捨人 |
| 60 | 第30句 | 祇 | おさまるなみに舟いつるみゆ |
| 61 | 第31句 | 柏 | 朝なきの空にあとなき夜の雲 |
| 62 | 第31句 | 長 | ゆきにさやけき四方の遠やま |
| 63 | 第32句 | 祇 | 嶺のいほ木のはの後も住みあかて |
| 64 | 第32句 | 柏 | さひしさそふる松風の聲 |
| 65 | 第33句 | 長 | 誰かこの暁おきをかさねまし |
| 66 | 第33句 | 祇 | 月はしるやの旅そかなしき |
| 67 | 第34句 | 柏 | 露ふかみ霜さへしほる秋の袖 |
| 68 | 第34句 | 長 | うすはなすゝきちらまくもをし |
| 69 | 第35句 | 祇 | 鶉なくかた山くれて寒き日に |
| 70 | 第35句 | 柏 | 野となる里もわひつゝそすむ |
| 71 | 第36句 | 長 | 帰りこは待し思ひを人やみん |
| 72 | 第36句 | 祇 | うときも誰か心なるへき |
| 73 | 第37句 | 柏 | 昔よりたゝあやにくの戀のみち |
| 74 | 第37句 | 長 | 忘られかたき世さへうらめし |
| 75 | 第38句 | 祇 | 山かつになと春秋のしらるらん |
| 76 | 第38句 | 柏 | うへぬ草葉のしけき柴の戸 |
| 77 | 第39句 | 長 | かたはらに垣ほのあら田かへしすて |
| 78 | 第39句 | 祇 | 行人かすむあめのくれかた |
| 79 | 第40句 | 長 | やとりせん野を鶯やいとふらん |
| 80 | 第40句 | 柏 | 小夜もしつかにさくらさくかけ |
| 81 | 第41句 | 祇 | 灯をそむくる花にあけそめて |
| 82 | 第41句 | 長 | たか手まくらに夢はみえけん |
| 83 | 第42句 | 柏 | ちきらはやおもひ絶えつゝ年もへぬ |
| 84 | 第42句 | 祇 | 今はのよはひ山もたつねし |
| 85 | 第43句 | 長 | かくす身を人はなきにもなしつらん |
| 86 | 第43句 | 柏 | さてもうき世にかゝる玉の緒 |
| 87 | 第44句 | 祇 | 松の葉をたゝ朝夕のけふりにて |
| 88 | 第44句 | 長 | うらはの里よいかにすむらん |
| 89 | 第45句 | 柏 | 秋風のあら磯枕ふしわひぬ |
| 90 | 第45句 | 祇 | 鴈なくやまの月ふくるそら |
| 91 | 第46句 | 長 | 小萩はら移ろふつゆも明日やみん |
| 92 | 第46句 | 柏 | あたの大野をこゝろなる人 |
| 93 | 第47句 | 祇 | わするなよかりにやかはる夢うつゝ |
| 94 | 第47句 | 長 | おもへはいつをいにしへにせん |
| 95 | 第48句 | 柏 | 佛たちかくれては又いつる世に |
| 96 | 第48句 | 祇 | かれし林もはるかせそふく |
| 97 | 第49句 | 長 | 山はけさいく霜よにかかすむらん |
| 98 | 第49句 | 柏 | けふりのとかにみゆるかりいほ |
| 99 | 第50句 | 祇 | いやしきも身をおさむるは有つへし |
| 100 | 第50句 | 長 | 人におしなへ道そたゝしき |












