文学

遠野物語【現代語訳#4】31話~40話:「おいぬ」は狼か?犬か?

プロフィール帳

『遠野物語』

時代:明治43年(1910)

作者:柳田国男

概要:東北地方に伝わる逸話や伝承を記した説話集

9

オススメ度

5

日探重要度

6

文量

2

読解難易度

狼(おいぬ)について

狼は「おいぬ」と読み、オオカミともイヌとも捉えられます。狼(おいぬ)の民話は『遠野物語』を通しても多いものとなっています。話を読むも、これがオオカミともイヌとも捉えられるのです。

21世紀現在、日本には野生のオオカミは存在しません。かつては2種類のオオカミが生息していました。

  • ニホンオオカミ:1905年以降未確認。絶滅か
  • エゾオオカミ:19世紀に絶滅。

『遠野物語』は1909年にフィールドワークを行っているため、狼(おいぬ)の話をしてくれた遠野郷の人々はそれより過去、約70年以内に体験してくれたことを語ってくれたと推測できます。それであればニホンオオカミはまだ生息していたので、「狼(おいぬ)=オオカミ」である可能性はありますが、1世紀以内で個体数を一気に減少させることができるかは疑問点です。

話の中で、「大群と遭遇した」というものがありますが、絶滅までのカウントダウンが始まっていたオオカミですので、それが果たしてオオカミだったのか、読むだけでは断言できないと私は思います。

そう考えると、「狼(おいぬ)=イヌ」とも考えられますが、イヌよりオオカミの方が知能が高かったのは事実。民話に登場する狼(おいぬ)の行動が果たしてイヌにできるでしょうか・・・

狼(おいぬ)はオオカミか?イヌか?

  • 知能の高さ→オオカミか?
  • 様相→オオカミか?
  • 個体数→イヌか?

結論が出ず、迷宮入りです(笑)。皆さんはどう思いますか??

31:山男

遠野郷の民家に住む子どもや女が、異人に攫われて行くことが年々多くある。特に女に多いという。

32:山の霊異

千晩ヶ岳(せんばがだけ)の山中には沼がある。この谷は物凄く生臭い臭いがする所なので、この山に出入りする者は本当に少ない。

その昔、何の隼人という猟師がいた。その子孫は今も生きている。この猟師は白い鹿を見つけ、捕えようとこの谷に追い込んだのだが、白い鹿がこの谷に千晩も籠ってしまった。これが山の名の由来となっている。

ついに姿を現した白鹿を撃つも逃げられてしまう。逃げた白鹿は次の山まで行ったところで片肢が折れてしまった。その山を今は片羽山(かたはやま)という。

さて、その後はというと、白鹿はまた先にある山まで行ったのだが、そこでついに死んでしまった。その地を死助(しすけ)という。現在は、死助権現(しすけごんげん)としてこの白鹿が祀られている。

※『古風土記』とそっくりな話である。まるで『古風土記』を読んでいるようであった。

33:花

白望(しろみ)の山に泊まると、深夜にあたりが薄明るくなることがある。秋頃、茸を採りにこの山に行くと、山中で宿をとる者がよくこの現象に遭遇するという。

また、谷のどこかから大木を切り倒す音や歌声などが聞えてくることがあるという。この山の大さは測ることができない。

五月に萱苅りに行く時、遠く望むと桐の花が咲き満ちている山がある。まるで紫の雲がたなびいてるようである。しかし、何故かその辺りまでに近づくことができないのだ。

かつて茸を採りにこの山に入った者がいた。その者は、白望の山奥で金の樋(とい)と金の杓とを見たという。持ち帰ろうとするも極めて重く、鎌で片端を削り取とうとするもそれも出来なかった。また来ようと思って、樹の皮を白くして、これを栞(目印)とした。次の日、人々と共にここに行き、栞を探し求めたが、ついにその木の場所も見つけることが出来ず、諦めたという。

34:山女

白望の山続きに離森(はなれもり)という所がある。その小字(こあざ)にある長者屋敷という小屋は、全く無人の領域である。

ここに行き炭を焼く者がいた。ある夜、その者は、その小屋の垂菰(たれごも)を掲げて小屋の中を窺う者がいるのを見た。髪を長く二つに分けて垂らしている女であった。

このあたりで深夜に女の叫び声を聞くことは珍しくはないという。

35:山女

佐々木氏の祖父の弟はある日、白望に茸を採りに行き、その夜を白望で過ごした。谷を隔てて向こう側にある大きな森林の前を横切って、女が走り行くのを見た。中空を走るように思われた。

「待てちゃア!」

と二度ばかり呼ばれたのを聞いたという。

36:狼(おいぬ)

猿の経立(ふったち)、御犬(おいぬ)の経立は恐ろしいものである。御犬とは狼のことである。

山口村に近い二ツ石山は岩山である。ある雨の日、小学校から帰る子どもがこの山を見ると、所々の岩の上に御犬がうずくまっているのを見た。やがて御犬は首を下から押しあげるようにして、代わる代わる吠えていた。

御犬は、正面から見ると生まれたての馬の子のように見える。後ろから見ると存外小さいらしい。御犬のうなり声ほど、物凄く、そして恐ろしいものはない。

37:狼(おいぬ)

昔は、境木峠(さかいげとうげ)と和山峠(わやまとうげ)との間で、運送用の馬を引き連れる者がしばしば狼に遭遇していた。

そのため、運送業者らは、夜に仕事をする場合は約十人で群を成して行動する。端綱を一人一本用いて、一人で五~七匹の馬を引き連れる。十人で行動するため、合計で四十、五十匹の馬の数を引き連れていることとなる。

ある時、二百、三百ほどの数の狼が追ってきたことがある。その足音は山に響くほどであったため、あまりの恐ろしさに馬も人も一か所に集まって、周りに火を焚いて狼の襲来を防いだ。

しかし、それでもなお火の壁を乗り越えて入って来る狼もいたため、馬の端綱を解いてこれを周りに張り巡らせた。狼はそれを落とし穴などと思ったのだろうか、中に飛び入ってくることはなかった。その後、さらに遠くから狼を取り囲んだので、狼は成すすべなく、夜が明けるまで吠えていたのだとか。

38:狼(おいぬ)

小友(おとも)村の旧家の主人である某爺(なにがしじい)という人は今も存命である。

町から村に帰る途中、頻りに御犬が吠えているのを聞いて、酒に酔っていたので某爺もまたその声を真似た。すると狼は吠えながら某爺の跡を来るようなり、某爺は恐ろしくなって急いで家に帰った。

門の戸を固く閉ざして静かに潜んでいたが、狼は家の周りを巡り、夜通し吠え続けた。夜が明けて外を見ると、狼は馬屋の土台の下を掘って中に入っており、七頭いた馬は残らず食い殺されていた。

この頃からこの家の時世は傾いた、とのことである。

39:狼(おいぬ)

佐々木君が幼い頃の話、彼と彼の祖父との二人で山から帰っていた時のことである。

川の岸の上に、大なる鹿が倒れてあるを見つけた。横腹が破れており、殺されて間もないからだろうか、そこからまだ湯気が立っていた。祖父は、

「これは狼が食ったものだ。この鹿の皮が欲しいとは思うが、御犬は必ずどこかこの近くに隠れて、鹿の周囲を見ているに違いない。だから取ることはできん。」

と言った。

40:狼(おいぬ)

草の長さが三寸(約1m)あれば狼は身を隠すことができるという。季節によって草木の色が移りゆくにつれて、狼の毛の色も変りゆくのである。

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