史料

意見封事十二箇条<全現代語訳>⑩第10条:六衛府の弩師を検非違使に!

作品を知ろう!!!

三善清行 平安

延喜4年(914年)に醍醐天皇に提出された政治意見書。平安末期の社会情勢と律令制の崩壊を知ることができる。

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律令制崩壊と負名体制に移行する移行期の社会を如実に示した非常に史料価値の高い意見書です。
意見封事十二箇条<全体構成と内容>律令崩壊期の社会変化を解説! 現代語訳一覧 各条文の現代語訳はこちらです! 現代語訳一覧 序文 第一箇条 第二箇条 ...

現代語訳

贖労人を検非違使の弩師に補任することを停止願います。

意見申し上げる1

諸国の検非違使は、境内でのよこしまで淫らな行為を正し、民間でのよこしまな行為を禁ずる役割を負っています。検非違使は国司の手先として働き、万民の悪事を抑止する策として存在しています。

検非違使は当然、法律を学習しており、また、下した決断の根拠に詳しいはずです。しかし、現在、検非違使に携わる者は、皆各国の百姓であり、贖労料を納めている者であります(検非違使としての知識がない上に、贖労により職務に当たっていない者が多いという意味)。彼らは無駄に俸禄を費やし、下働きにも耐えられないような者たちです。検非違使というその名は偽りであり、彼らは検非違使の器ではありません。絵に描いた餅を食べることができないのように、何の役にも立たないのであります。木を役人にしたところで、物言うことなどできません。

恐れながら希求します。明法道(法律)を学ぶ学生に試験を課し、彼らをこの職に充てるべきだと。検非違使の試験は、国学の試験に用いられる明経道(儒教)が対象です。

とらちゃ
とらちゃ

法律が必要なのに儒教を試験科目にする理由は、法に基づく裁断の基準と、仁徳による裁断の善し悪しを測るためです。

弩という武器

国中の指名手配や断罪の処理はただひたすらに現地の検非違使に委ねられており、彼らは京から派遣された判事や検非違使が、その場にいるかのような振る舞いをしています。

また、京周辺の国では検非違使の中に弩師を配置しております。賊徒の襲来による犯罪を防ぐためです。

私は恐れ多くも朝廷が有する武器を拝見しましたところ、特に強弩は神が用いる武器のような印象を受けました。弩は防御に勝り攻撃に劣る武器です。古くからの言い伝えには、神功皇后はこの武器を極めて巧みな武器だと思い、自分用に別に製作されました。唐では強い弩師には弩名が存在するといいますが、日本では唐に並ぶ強い弩師を見たことがありません。

国内の防衛事情

国内情勢を見ましたところ、陸奥国、出羽国では蝦夷による反乱が起きております。そして、大宰府管轄の九州は常に対新羅の警備に当たっております。それ以外の北陸、山陰、南海の三道はそれぞれ海に面した国であり、これもまた、賊の侵入に備えています。

弩の商品価値

この度申し上げた弩師ですが、皆、金を得るために弩を売却しており、それを許している状況です。ただただ、弩そのものの価値の高い低いを論じているのです。才能や技量の優劣は問うていません。

そのため、検非違使の補任といえども、贖労人は弩という武器があることを知りません。弩をはじめとした投石器を武器として用いることを実現すべきなのはなおさらのことです。たとえ天下が平和で恐怖のない世の中になったとしても、民は身の危険を忘れることはなく、一日一日気をつけて生活することでしょう。万が一、死者が出るほどの苛烈な賊が襲来して、この武器は懐にありません。誰かが広める必要があるのです。

意見申し上げる2

恐れながら希求します。六衛府の宿衛らに弩の射術練習させたうえで才能と技量を測る試験を行い、その成績に従って弩師として任命するべきだと。そうすれば、無能な贖労人を雇う必要はありません。適材適所。弩の扱いに長けた者を、検非違使として登用すれば、以前より城を防衛しやすくなるのです。

単語帳

贖労人(しょくろうにん) 出勤を銭で代替して、働かずして官に在位し続けることを贖労といい、国が解雇された役人に対して生活を繋ぐために労働を与えたことに始まる。ほとんどの出勤を銭(贖労料)で代替した者も少なくなく、その間、出勤しない者の代わりに補任として労働した者がいた。これが贖労人である。舎人、検非違使、弩師がこれに該当することが多かった。
弩師(どし) 弓の扱いに長けた人。弩は弓矢というよりは、クロスボウに近しい武器
奸濫 よこしまで、淫らなこと。
国宰(こくさい) 国司のこと。大化の改新以前は、「国の宰(くにのみこともち)」とよばれた。
爪牙(そうが) 爪と牙。転じて、働く者。
兆庶 兆民のこと。つまり万民。
銜(はみ) 馬の口に挟んでいる紐のこと。この場合、民の行動を制限するという意味。
差役(さしやく) 下働きをする者。
明法(めいほう) 官吏登用試験(課試)のひとつ。明法道を学ぶ学生が対象。明法道とは、大学寮における四道(紀伝道、明経道、明法道、算道)のひとつで、律令つまり法律を学問とする。
国学 官人養成機関として諸国に置かれた教育機関。江戸時代に隆盛した学問の「国学」では無い。
判事 刑部省に所属した役人のこと。対象身分は正五位〜従六位相当。
寇賊(こうぞく) 外から侵入し、盗みなどの害を加える悪者のこと。
戎器(じゅうき) 戦に用いる武器のこと。
自余 それ以外。
機弦 投石器のこと。