史料

樺太千島交換条約<全現代語訳>

目次

現代語訳

この度、ロシア帝国と千島・樺太両島の交換条約を別紙の通り締結したため、この旨を布告する。

明治八年(1875)11月10日 太政大臣 三条実美

天の加護を受け、万世一系の帝位を継承する日本皇帝は、この書をもって宣言する。
朕はロシア皇帝陛下と同じ望みを持った。よって、朕が領有する樺太島(サハリン島)の一部分をロシア皇帝陛下に譲渡すること、ロシア皇帝陛下が領有する千島群島(クリール諸島)の全てを朕に譲渡することを互いに決定した。
双方の全権大臣(日本:榎本武揚 ロシア帝国:アレクサンドル・ゴルチャコフ)は、明治八年(1875)5月7日にペテルブルクにおいてこの条約を締結、調印した。その条項は以下の通りである。

樺太千島交換條約

この度、大日本帝国皇帝陛下とロシア帝国皇帝陛下は、これまで両国が混在して領有していたことが原因で発生していた樺太島(サハリン島)のしばしばの紛争を解決するとともに、両国間の友好関係を強固なものとするために以下の条約を締結した。

大日本帝国陛下は樺太島(サハリン諸島)における領地の権利を、ロシア帝国皇帝陛下は千島列島(クリール列島)における領地の権利を、互いに交換することを約束する。

大日本帝国陛下は海軍中将兼在ロシア特命全権公使、従四位榎本武揚に全件を委任し、

ロシア帝国皇帝陛下は太政大臣公爵アレクサンドル・ゴルチャコフに全権を委任した。彼の功績は以下である。
・金剛石装飾ロシア帝国肖像勲章
・金剛石装飾ロシア帝国聖アンドレアス勲章
・聖ウラジミル一等勲章
・アレキサンドル・ネフスキー勲章
・白鷲勲章
・聖アンナ一等勲章
・聖スタニスラス一等勲章
・フランス共和国レジオン・ドヌール大十字勲章
・スペイン王国金羊毛大十字勲章
・オーストリア帝国聖エティエンヌ大十字勲章
・金剛石装飾プロイセン王国黒鷲勲章
・その他諸国の勲章

右に記した各全権公使は協議の上、左の条約を決定した。

第一欵
大日本帝国皇帝陛下は、その後子孫に至るまで、樺太島(サハリン島)の一部を領有する権利および大日本帝国陛下に属する全ての権利をロシア帝国皇帝陛下に譲渡する。これにより、今後、樺太全島は全てロシア帝国に属するものとなる。ラ・ペルーズ海峡(宗谷海峡)をもって両国の境界とする。

第二欵
ロシア帝国皇帝陛下は、第一条に記載された樺太島(サハリン諸島)の権利を受け取り、その代わりに、現在領有している千島列島(クリル諸島)の以下の18島の権利および君主に属する全ての権利を、子孫に至るまで、大日本帝国皇帝陛下に譲渡する。
・シュムシュ島
・アライド島
・パラムシル島
・マカンルシ島
・ヲコタン島
・ハリムコタン島
・エカルマ島
・シャスコタン島
・ムシル島
・ライコケ島
・マツア島
・ラスツア島
・スレドコワ島およびウシシル島
・ケトイ島
・シムシル島
・ブロトン島
・チェルポイ島およびプラット・チェルポエフ島
・ウルップ島
これにより、今後、千島全島は日本帝国に属するものとなる。カムチャツカ地方のラパツカ岬とシュムシュ島の間の海峡をもって両国の境界とする。

第三欵
前条に記載された各地およびその土地の産物は、この条約が批准され交換されたその日からすぐに新しい領主に属するものとする。ただし、各地の受け渡しの式は、批准後に双方から官員一名または数名を選び、受け取り担当者として実地での立ち会いの上で実行するものとする。

第四欵
前条に記載された交換の地の権利には、その地にある公有の土地、人が所有していない土地、全ての公共の建造物、要塞、駐屯地、および人民の私有に属さないこの種の建物などを所有する権利も含まれる。
現在各政府に属する全ての建物および動産は、第三条に記載された双方の受け取り担当者が調査し、その代価を査定する。その金額は、その地を新たに領有する政府が支払うものとする。

第五欵
交換された地域に住む各住民(日本人およびロシア人)は、各政府によって以下の条件が保証される。各住民は共に自国籍を保持することができ、自国に帰りたい場合はいつでも自由に帰ることができる。
また、交換された地域に留まりたい場合は、十分に生計を営む権利、所有物の権利、自由に信仰する権利が完全に保護され、新しい領主の属民(日本人およびロシア人)と同等の保護を受けることができる。
ただし、各住民は保護を受ける政府の管轄下に属する。

第六欵
樺太島(サハリン諸島)を領有することによって発生する利益に報いるために、譲渡する大日本帝国に対し、ロシア国皇帝陛下は次の条件を認める。
第一条
日本船がコルサコフ(クシュンコタン)港に来航する場合、この条約の批准、交換の日から10年間、港税および関税を免除する。この期間満了後、期間をさらに延長するか、税の徴収を開始するかはロシア国皇帝陛下の裁量に任せる。
また、ロシア国皇帝陛下は、日本政府がコルサコフ(クシュンコタン)港に領事官または領事兼任の役人を駐在させる権利を認める。
第二条
日本船および商人が、通商や航海を目的としてオホーツク海の諸港およびカムチャツカの港に来航した場合、またはその海および海岸に沿って漁業を営む場合、懇親なるロシア国民と同様の権利および特典を得ることができる。

第七欵
海軍中将榎本武揚の全権委任状原本はまだ到着していないが、電信で送付する旨の連絡を確認したため、原本の到着を待たずにこの条約に署名し、到着後に全権委任状を互いに示す儀式を行うこととする。このことは本文とは別に記すことで証拠とする。

第八欵
この条約は、大日本国皇帝陛下およびロシア国皇帝陛下が互いに承認することで、批准するものとする。両皇帝陛下の批准書の交換の式は、全権委任状に署名した日から6ヶ月以内に東京で行うものとする。
この条約に効力を持たせるために、各全権代表がそれぞれの名前を記し、捺印するものとする。

明治8年5月7日、すなわち1875年4月25日(5月7日)、サンクトペテルブルクにて。

榎本武揚(印)
ゴルチャコフ(印)

朕は本条約を通読し、内容は適当であると認めた。よって、今この書面をもってこれを完全に承認し、批准することとする。天地と永遠に対し、条約中に記載された全ての条項を正確に遵守することを約束する。証として、ここに朕の名前を自ら記し、国璽を押下する。
神武天皇即位紀元2535年、明治8年8月22日。

御名 國璽

奉勅 外務卿寺島宗則(外務卿印)
勅命を奉る。外務卿寺島宗則(印)

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