為続・長毎・晴広
室町(戦国)
現在の熊本県域を治めていた相良氏による分国法。
分国法とは??
分国法とは、戦国時代に大名が定めた、各々の領地にのみ適用された法律のことを指します。基本的に、どの分国法も訴訟関係の法が中心となっています。
日本という国家を維持しながら独自の自治を展開した戦国時代特有の現象です。
- 相良氏法度
- 塵芥集
- 早雲寺殿二十一箇条
- 六角氏式目
- 朝倉孝景条々
相良氏法度について
相良氏は、現在の熊本県域を治めていた戦国大名です。
そんな相良氏ですが、3代に渡って分国法が定められました。
第1条~第20条
為続(第12代)・長毎(第13代)
[1400年代末]
第21条~第41条
晴広(第17代)
[1500年代前半]
めっちゃ追加した!これで治世が楽になる~
ちなみに一向宗、お前ら俺の領土からは出禁な。
室町時代に絶大な勢力を誇った宗教勢力、一向宗。
いったい何を禁止したのか、フライングで読みたい方はこちらへ!
一向宗は一神教の宗教で、日本史において大きな影響を与えました。
仏教は多神教なのに一神教とはどういうことか!?
こちらで解説しています。
数的分析
全41ヵ条を分類してみました。
売買 | 第01・02・03・16・19・20・31条 |
---|---|
農業・土地 | 第08・10・27・28・40・41条 |
犯罪 | 第11・12・13・33・39条 |
税・労働力 | 第21・22・23・24条 |
家 | 第09・30・32条 |
申し立て | 第06・07・18条 |
罪人の扱い | 第14・25・34条 |
宗教 | 第35・36・37条 |
男女 | 第29・26・38条 |
国外の者 | 第04・17条 |
貨幣 | 第05条 |
決闘 | 第15条 |
けっこう偏りがありますね。
赤文字は、後からわしが追加した分じゃ。
特に、「農業・土地」に関する法に追加が多く、
「税・労働力」・「宗教」・「男女」に関しては新規で追加されました。
不足していた項目を完全に補完したような印象を受けます!
では、『相良氏法度』を全部読んでみましょう!原文は、著作権の問題で載せていません。
為続・長毎両代之御法式(20条)
第1条
買い戻しの事について。売主と買主が死んで以降、子孫らが契約書状を持っていない場合は、異論なく本来の持主に返すべし。
第2条
契約書状のない買い戻しについて。買主が死んだ場合、本来の持主のものとすべし。
第3条
買い取った田地を人に売った後、その主が落ちぶれた時は、買い取る前の本来の売主が所有するべし。
第4条
代々続く家に仕える事は当然のことである。所領内の者は、婦人、子どもに関わらず、他の地から来た者を追い返してはならない。
寺家、社家も同様である。
第5条
悪銭が出回っていた時期に土地を買ったことについて。字大鳥は悪銭のため、字大鳥十貫で良銭四貫文と交換する。同様に悪銭である黒銭は、黒銭十貫文で良銭五貫とする。
第6条
何事であっても、法度を新しく制定するよう申し出る時は、真面目に、そして互いの意見の一致を仰ぐことが肝要である。
なおざりにする者は、相良氏が聞き出し不都合な理由を真面目に申すべし。
第7条
領地の境界に関する揉め事について。以前から既に境界が定まっている揉め事については訴えてはならない。
何事もそうだが、その所衆が話し合いによって取り計らうことは当然のことである。本当に、話し合いでも解決しない揉め事に関して相良氏に申し上げよ。
所衆の裁決に従うことが出来ず、申し出を乱用する者は成敗とする。後日の証拠として申し上げよ。
第8条
本田の水を使って新田を開く場合、本田の都合が悪いことがある。たとえ本田で余った水であっても、よくよく本田の領主に願い出て、承知の上で、田を開くべし。
第9条
従者が主人のもとを離れる時、または別の人に仕える事について。本来の主人への届出があって許可が出ているのならば、互いに許容するべし。
第10条
牛馬を逃がす事について。これは田畑の収穫物を納めた後にすること。年が明けて再び牛馬を必要とする時節になったならば、その地その地の決まりに遵うべし。
ただし、万が一逃がした牛馬が収穫物を食べるなどして損害が出た場合、逃がした主人は相応の補償を出すべきである。損害分を請求するためならば、その牛馬を取り押さえて良い。
第11条
盗品だと知らずに買い置くことは難しい問題である。売主が誰か分からない物であれば、よくよく考えて決めること。ただし、意図的に売主を知らないと述べれば、それは盗人と同じ罪過となる。
第12条
他人を陥れるために悪口を言う者、讒者について。讒者であるとの裁決が下された時は、その者は死罪、流罪、その時の状況で決めるべし。
また、疑いがないのに申し開くことをした場合は、讒者はこの人だと嘘の訴えをした人は別途重罪とする。
流言が、当時非常に重い罪であったことが分かります。噂一つで下剋上が起きるような時代だからこその厳しい規制なのでしょうか。
第13条
批判や風刺の匿名文書(=落書)を取り上げる事について。この文書を作成した者が判明した場合、庶民と出家人、身分上下に関わらず、処罰の対象である。
万が一取り上げた場合、その文書に記してある対象者を特定すること。その者を犯人として科料の対象とする。
「落書」とは、批判や風刺の匿名文書のことです。「落書」といえば、かの有名な『二条河原落書』も作者不明です。
第14条
寺家、社家によらず、寺や神社に逃げ込んだ罪人について。この者は追い出すべし。それが重罪の者であった場合、場所に構わず成敗してよい。
第15条
奉公人の揉め事について。勝ち負けがどのようになろうと、主人は間に入ってはならない。奉公人同士で体罰を加え合うべし。
第16条
用があって契約文書を作った上で質入れをする事について。必ず、いつからいつまでと質入れの期間を定めるべし。期間を過ぎた者の質は、質入れ先の主人が継続して所有するべし。
第17条
他の地から相良家所領内の者を尋ね来た場合について。男女子ども誰であっても、その者と道中で遭遇した場合、尋ね先まで同行するべし。
第18条
諸問題について。相良家の権門勢力に申し出をした後、世間で罪過ありと裁定されたならば、申し出した内容が道理にかなっていると相良氏側で判断されたとしても、敗訴とする。
訴え人の主張は受け入れることが無理だとの世間の声があるにも関わらず、そう言う人々に殺すような旨の発言を乱発する者がいる。万が一不慮の事態であっても、そう言う人々が死亡するようなことが起これば、世間から非義といわれる訴人を殺人犯として所帯を没収し、死亡した人の子孫に与えるべし。
所領がない者は、妻子に至るまで死刑とする。よくよく事の分別を弁えて行動するべし。特に、そう言う人々の所へ行ったり、道中で会ったりしても、総じて、面と向かっていいように話し合ってはならない。
第19条
期限付きで田畑を売って、期間満了でないうちにまた別の人に田畑を売る者がいる。他にも、子どもを質に入れる際、二所に質入れする者もいる。
これは重罪であり、この二例はいずれも主人から取り押さえて良い。家臣の面々がこれに直面した場合、上様直々に対応する。
第20条
米の売買の相場について。これは一斗枡を使用しなさい。
その年の収穫量によって枡の量は多少変動があろう。しかし、相良家所領においては、指定する枡の他は使用してはならない。
晴広様被仰定候条々(21条)
第21条
井関や溝といった用水路を築造する事について。田の枚数に応じて、何度も労働力を出すべし。労働力を派遣しない者の入水口はすべて閉ざす。
第22条
購入した土地における用水路築造時の労働力提供について。用水路築造の労働力が10人必要であれば、買主、売主から各5人ずつ労働力を提供すること。
第23条
段銭を徴収するとのお触れが出た時は、5日以内に揃えること。以下21条に付して記す。購入した土地の場合は、買主、売主が半分ずつ出すこと。
第24条
検断が行われる場所に小作人を置くことについて。罪過に関わりのない小作人は主人の元に返すべし。ただし、その場所の収穫を既に終えた場合、主人は夫役を負担するべし。
また、主人を置いた主人(置主の主人)が検断の対象者となった時は、置主の主人が夫役を負担するべし。
「検断」とは、現代で言う刑事裁判のようなものです。
第25条
検断が行われる場所において、犯人が捜査の対象者である縁者を匿っていた場合、縁者は「我々は他領で労働に従事していました。以前は(犯人を)匿っていましたが、我々は帰ってきたばかりなので無関係です。」などと言う。
この言い分だと、検断が行われるより以前から、縁者らを他領で保護していた者がいたということになる。その者に、縁者らを頼み置くこととなった理由を聞き、理由が合点しない場合は、検断実施者の言うがままの裁定とする。
第26条
検断時の娘の身の上について。娘が検断の以前から嫁ぐ約束があったとしても、検断時にまだ嫁ぎ先に行っていない場合は、検断の捜査対象とする。
検断の際に及んで、娘を嫁ぎ先が受け取る場合は、婿に科料を課す。
第27条
百姓に対して検断を行う時、百姓は「武士に仕えているため、百姓検断の対象ではない。」と言う。しかし、検断対象の土地を保持、保護している以上、百姓に責任がある。そのため百姓も検断の対象となるだろう。
第28条
主人が掛け持ちしている土地を検断する時、主人は
「百姓は仮屋などに住まわせている。この場所に屋敷はないが、私ではなく、百姓が所有している土地なのである。」
と言うことがある。その場所に屋敷がないのであれば、それは検断の対象である。
第29条
遊女を女房として迎えるために売る事は盗人と同じである。遊女が商品であるからだ。ただし、代金の代わりとして遊女を迎える場合、罪の有無は状況に依存する。
第30条
縁者、親類との理由で養っていたのに、しばらくして売ったり、質物として質屋に入れたりする行為は科料の対象となる。「以前より扶養していた。」との言い分けはしてはならない。
第31条
売地について。相手が本作人であっても、土地売買の秩序を乱すような不正行為はしてはならない。誰にでも土地は売って良い。
第32条
人に仕える下人が主人のもとから逃亡することがある。その逃亡者の周りの者から「逃亡を後悔している。」という伝言を受けた場合は、連れ戻し、その逃亡者を成敗するべし。
「主人と逃亡者の両方に罪過がある。」という裁定にするのは、道理でない。
第33条
雇われて、夜討、山立、放火などをした場合、雇い主と雇われ人(実行犯)同時に成敗する。ただし、雇い主に身を翻して、事を起こす前に詳細を申し出た者に関しては、罪の有無はその時の判断によるか。
第34条
逃走し、球磨郡内に留まる者を捕まえた場合、その報酬は三百文とする。八代郡、蘆北郡に留まる者を捕まえた場合は五百文とする。また、他の地から来た逃亡者を捕まえた場合は、一貫文とする。
八代・蘆北は相良氏の領地の一部です。相良氏は八代、蘆北、球磨の三郡を領有していました。
第35条
他の地から来た祈祷師、山伏、陰陽師に関しては、宿を貸してはならない。祈祷などを頼んでもいけない。これは一向宗の基本行動である。
第36条
一向宗について。いよいよ法度で規制しなければならない。一向宗が支配している加賀国にある白山は噴火している。山の神がお怒りなのである。噂に聞く一向宗の身勝手な行動は明らかになっている。
第37条
性別によらず、素人の祈祷、診察は皆一向宗の者と心得ること。
第38条
男からの正式な離縁状を持っていない女子に対して、軽はずみに男との仲介をしてはならない。
当時、離縁状は男から女へ渡されるものでした。
第39条
我が相良家城下町においての商業税について。「私は誰々の官吏である。」と申す者がいるが、長官へ申し出をしていない時点で後ろめたい事をしているのだろう。
これより以降、誰々の官吏であっても、売買を行う際は商業税を先代の時と同じように長官に納めること。
追記。スリを行う事について。城下町における条に追加する。スリを行う事について。集団でスリを行う者がいるが、袖をの下を控えている者に目をつけ、その真偽を調べること。
第40条
用水路の古い杭、樋を奪う者は、罪科に処す。
第41条
さし杉やその他の竹木を届出なく伐採する者は見つけ次第、主人に許可を取り、見つけた者が成敗してよいとする。
まとめ
いかがだったでしょうか。大河ドラマやゲームでみる戦国時代とはまるで違います。非常に生々しい史料ですね。
- 『相良氏法度』は、分国法のひとつである。
- 3代に渡って、計41条が作成された。
- 訴訟や土地に関する規定だけでなく、一向宗勢力を抑制する法も存在した。
国を治めるには、やはり揉め事をいかに公平に解決するか。という点が大切なんだなと気づかされます。
今の時代も、急な社会の変化に法律が追い付いていない例が非常に多いです。
晴広公が後から条々を追加したのも、激動の時代に対応するためだったのかもしれませんね。今も昔も変わりませんな!