史料

意見封事十二箇条【現代語訳#3】第3条:百姓の半分が所在不明だが?

プロフィール帳

『意見封事十二箇条』

時代:平安(延喜4年(914年))

作者:三善清行

概要:醍醐天皇に奏上。平安末期の社会情勢と律令制の崩壊を知ることができる。

8

オススメ度

5

日探重要度

6

文量

7

読解難易度

 

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律令制崩壊と負名体制に移行する移行期の社会を如実に示した非常に史料価値の高い意見書です。
意見封事十二箇条【全体構成と内容】律令崩壊期の社会変化を解説! プロフィール帳 『意見封事十二箇条』 時代:平安(延喜4年(914年)) 作者:三善清行 概要:醍醐...

現代語訳

右臣伏見。諸国大帳所載百姓。大半以上。此無身者也。爰国司偏随計帳。充給口分田。即班給正税。徴納調庸。於是有其身者。才耕件田。頗進租調。無其身者。戸口一人。私沽件田。曾不自耕。至于租税調庸。遂無輸納之心。謹検案内。公家所以班口分田者。為収調庸挙正税也。而今已姧其田。終闕厥貢。牧宰空懐無用之田籍。豪富弥収并兼之地利。非唯公損之深。亦成吏治之妨。今須令諸国閲実見口班給其口分田。其遺田者。国司収為公田。任以沽却。若納地子。以充無身之民調庸租税也。猶所遺之稲。委納不動。今略計其応輸之数。三倍於百姓所進之調庸。為公有利。為民無煩。此皆国宰専行。応無殊妨。然而事乖旧例。恐有民愁。伏望。申勅諸国。試令施行。

諸国に勅命を出し、戸籍に則って口分田を班給することを望みます。

律令制の崩壊

恐れ多いながら諸国の大帳簿を拝見しましたところ、記載されている百姓は大半が所在不明の者でした。国司は誤った計帳に従って口分田を班給しているということです。

納税は、班田に応じて租を決め、調庸を徴収しています。戸籍が判明している者は僅かしかない田を耕し、大いに租や調を納めています。対して、所在が分からない者は、戸籍が一人であり、班田は荒廃しているため、決して耕すことができません。結果的に、租や調庸は遂に納められなくなりました。

公家の口分田というのは、調庸を納め、正税を献上するために存在します。しかし今、そのような口分田はついに献上を欠いている状態です。国司は無用な田の管理し、豪族はそれに加えて土地を所有しています。国の損害が深刻なだけではなく、役人の国内統治の妨げにもなっています。

意見申し上げる

今、諸国の戸籍を改めて調べ、正しく口分田を班給するべきです。残りの不明の田は、国司が公田として収公し、国司の判断で公田を民に売り払わせます。それで得られる地子を、納税していない所在不明な民の分として補填するのです。不明の田の利稲は、不動穀として非常用に保管します。

今まさに、百姓が納める調庸の納税数を三倍に増やすのです。国に利益が出るだけでなく、民の不安を取り除くことができましょう。

このことは全て国司が行うことであり、妨げがあってはならないのです。しかし、この政策は過去に例がありません。そのため、民の心が天皇のもとを離れることを恐れています。これが政策の障害になるかもしれないからです。

恐れながら希求します。いきなり施行するのではなく、諸国に勅命を出し、試しとして施行することを。

単語帳

大帳計帳のこと。大帳は計帳をもとに作られる(=参照して作られる)。閑寂人参照。
沽却売り払うこと
地子(じし)公田の余りを貸し付けた際に納めさせた収穫量の五分の一の税。
不動穀各国において非常用に備蓄された稲。

 

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