解説
『雨月物語』とは
『雨月物語』は、上田秋成によって作られた、江戸時代後期の読本(よみほん)です。1776年(安永5年)に刊行され、日本文学史上、怪異小説の傑作として高く評価されています。全九編構成です。中国文学の影響を受けつつ、それに日本的な美意識や思想を融合さるといった、いわば東アジアの怪異小説の最高峰といえましょう。
そのため、原文は漢文調を基調としており、格調高く典雅でありながら、和歌や古典文学の素養を背景に、日本的な情緒や幽玄の美を表現しています。
上田秋成は儒教や仏教思想に通じていたため、因果応報や無常観といった思想が作品全体をに一貫として表れています。
つまり、怪異は単なる恐怖の対象ではなく、人間の業や心のあり方を映し出す鏡として機能しているともいえるのです。
「雨月」とは
「雨月(うげつ)」とは、雨降る夜に、雲間からぼんやりと見える月のことを指します。
もともとは中国文学で使われる単語で、
- はかなく消えやすいもの
- 現実と幻想のあわい
- つかみどころのない人の心
- 無常観
といったように、様々な意味を包含しています。
総体、現実と幻想が入り混じる世界観を象徴する言葉といえましょう。
『雨月物語』では、幽霊や妖異が登場しますが、それは単なる怪談ではなく、それらに人間の執着や欲望、後悔といった「心の闇」を映し出しています。非現実的な存在でありながら現実的な様相が見出される、その曖昧で幻想的な雰囲気を、「雨ににじむ月」という言葉で表しているのです。
現代語訳一覧
引用した原文はこちら!
第一『白峯』
西行は讃岐の白峰で崇徳院の御陵を訪れ、夜更けに院の霊と対面する。都を追われた無念と、世を乱すという不穏な言葉。炎の中に現れたその姿は、果たして怨念の化身か、それとも迷える魂か。やがて闇は静まるが、のちに都を揺るがす大乱が起こる――。あの夜の言葉は何を意味していたのか。

第二『菊花の約』
約束を重んじる学者、左門は、旅先で重病の武士、赤穴を救い、深い義兄弟の契りを結ぶ。別れ際、赤穴は「九月九日に出雲から戻る」と約束し、当日、それを守ったが赤穴の様子がどこかおかしい。問い詰めると、正体は、赤穴の魂だった。その身に一体何があったのか。真実を知った左門は、誰も予想だにしなかった行動に出る――。

第三『浅茅が宿』
勝四郎は商いのため都へ向かい、戦乱に阻まれて七年帰らなかった。故郷に戻ると、荒れ果てた家で、妻の宮木と再会し、一夜を共にする。だが、夜が明けてみるとそこには――。秋に帰るという約束を信じ、独り守り続けた貞操、命、希望。あの夜のぬくもりは夢か、執念か、それとも愛のかたちだったのか。
第四『夢応の鯉魚』
三井寺の絵僧、興義は、放した魚を描き、それを「夢応の鯉魚」と名づけて惜しんでいた。ある日、興義は病死するが、なんと三日後に蘇り、開口一番、今日開催の檀家の宴の様子を見てきたかのように語る。使者が怪しんで見に行くと、なんと全く同じ光景が広がっているではないか。興義は超能力を手に入れたのだろうか。興義は全てを語り出す――。
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第五『仏法僧』
伊勢の夢然は、老いの楽しみとて、作之治を連れて吉野の桜を見てから高野山へ赴いた。険しい山路に阻まれ、霊廟の前で雨具を敷いて念仏して夜明けを待つ中、清浄の地を選び仮宿するブッポウソウの声に心を打たれる。すると、貴人の一行がこちらへ向かってやって来るではないか。それはなんと、関白、豊臣秀次公であった――。
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第六『吉備津の釜』
吉備国の井沢家の長男、正太郎の浮気性を更生させようと、両親は言葉巧みに、良家の娘、磯良を娶る。磯良の両親は、嫁ぐ前に釜占いを行ったが、結果に関わらずそれを了承した。華やかな縁談も束の間、正太郎の浮気性は夫婦の生命を脅かす。あの釜占いの意味が、改めて問われることとなるのであった――。
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第七『蛇性の淫』
紀伊国三輪が崎の漁師の家に生まれた豊雄は、雨宿りに訪れた絶世の美女、真女子と出会い、心を奪われる。翌日、彼女の屋敷を訪ねると、夢のような饗応と愛の告白を受け、太刀を贈られる。この太刀が豊雄の生命を脅かすことになるなど知らずに。そして、それはただの序章に過ぎなかった――。
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第八『青頭巾』
快庵禅師は旅の途上、鬼が出ると噂される荒れ寺を訪れ、死んだ童子への愛欲から狂鬼となった阿闍梨と対峙する。「悟るまでそこから動くな。」そう言って、禅師は青頭巾と二句の証道歌のを授けて教化した。翌年、禅師が再訪すると、なんと、阿闍梨はその場で句を唱え続けていた――。
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第九『貧福論』
戦国時代、武勇と倹約蓄財を家訓として名を馳せた武人であり奇人、蒲生氏郷の家臣の岡左内のもとに、ある夜、金の精が姿を現した。両者は貧賤と富貴について議論し、精は左内を儒教と仏教をもって説く。話題は天下へ。戦国乱世。金。当てはまる人物はあの天下人しかいない。精は天下人について予言を残す――。
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